指矩(さしがね)の使い方【プロも知らない本来の目的】

差し金の目盛り

今回は指矩(さしがね)の本来の目的との使い方についてご紹介します。
最近では、サシガネは直角の測り出しや直線を引くためだけに使用する道具となっています。

指矩(さしがね)は古くから大工に必要不可欠な道具の一つで、本来の目的や使い方は非常に奥が深く便利な道具です。
プロの大工を目指す方なら、指矩(さしがね)本来の使い方が現在でも役に立つことがありますので、ぜひ修得してください

The English version of the article [The Japanese Framing Square: Gently Introducing its Profound Usage] is available here.

目次

指矩(さしがね)画像

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説明用動画

指矩(さしがね)の本来の目的
1・墨を付けるための道具
2・勾配を出す道具(分度器)

現在の指矩(さしがね)使い方
・さしがね型の定規
・目盛り配置が違っても本来の使い方はできる
・なぜ指矩本来の使い方が無くなったのか?

指矩(さしがね)の謎の形について
・目盛りの配置(裏目)
・形や硬さ

本来の目的・1 墨付けについて
・木造に使用される軸組の墨付け
・指矩(さしがね)は持って使う道具
・曲がっても正確性を維持

本来の目的・2 角度を出す
・直角三角形の辺の比で表す角度
・斜めと斜めが合わさる勾配
・規矩術(大工独自の数学)について

よく紹介されている指矩の間違った使い方
・30度60度を指矩(さしがね)で出すこと
・丸目の目盛り
・指矩(さしがね)を曲げてアール墨を引く

指矩(さしがね)のもう一つの役割

最後に

大工道具(手道具)についてのまとめページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

13.指矩(さしがね)【プロも知らない本来の使い方】規矩術や墨付け

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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指矩(さしがね)の本来の目的

裏目を使った勾配の出し方

1・墨を付けるための道具

木造軸組工法での墨付けを行うための道具

2・勾配を出す道具(分度器)

本来指矩(さしがね)は分度器です
直角や直線を引くための道具は別に専用の道具があります。

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現在の指矩(さしがね)使い方

現在の用途に合わせたさしがね

・さしがね型の定規

シンワ 曲尺 平ぴた 表裏同目  50cm
現在の大工作業に適したサシガネです。
表面に凹凸がなく定規として使いやすい形状です。

現在サシガネは、直角を測り出すためや直線を引くため、寸法を測るために使用されています。
もちろん住宅を作るためにはその役割は重要ですが指矩(さしがね)本来の使い方とは言えず、指矩型の定規を使用している状態です。

目盛りや形も現在の使用法に適した物があり、私自体も最近は本来の形の指矩(さしがね)を使うことはありません。

大工が使用する定規についてまとめたページはこちら

技能士試験合格のためのコツについてまとめたページはこちら

・目盛り配置が違っても本来の使い方はできる

長さと幅が本来の形であれば本来の使い方は出来ます。
本来の使用法は数学のようなものなので、知ってさえいれば目盛りの配置が変わっていても、問題なく使用できます

寸表記かmm表記化かは関係ありませんし、裏目(√2)がない差し金でも対応できます。

・なぜ指矩本来の使い方が無くなったのか?

指矩(さしがね)本来の使用法が使われなくなったのはプレカットの普及が原因です。
住宅の本質的な形が変わったわけではありませんので、知っていれば本来の使用法が役立つ機会は現在でもたくさんあります。

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指矩(さしがね)の謎の形について

さしがねはしなやかに曲がる

現在のサシガネと比べると、本来の指矩(さしがね)は不思議な形をしています。
謎の目盛りがあり、形も硬さも実用的でないように思えます。

シンワ  匠甚五郎 しなやか  裏面角目盛(50cm)
本来の形状のサシガネ(㎜目盛りタイプ)

シンワ  匠甚五郎 しなやか  裏面角目盛 1尺6寸(50cm)
本来の形状のサシガネ(寸目盛りタイプ)

・目盛りの配置(裏目)

指矩(さしがね)には裏表があり、目盛りの配置にも決まりがあります。

裏目(√2)

指矩(さしがね)の裏の長手方向には裏目(角目)という目盛りが設定されていて、対角寸法(√2)1.414…です
さしがねは、古来中国から輸入された道具で、財・病・離・義・官~と書かれているのはロハン尺と言って古来の裏目の名残だそうです。

大工工事に便利な計算式をまとめたページはこちら

・形や硬さ

角の形

現在使用する上では非常に邪魔になる部分だと思いますが、本来の形の指矩(さしがね)は、直角部分だけが厚くなっています。

曲がりやすさ

高級な指矩(さしがね)ほど、柔らかく造られています。

定規面の形

指矩(さしがね)の直線部分は、外側に膨らみがあり中央が薄くなっています。

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本来の目的・1 墨付けについて

墨付けでのさしがねの使い方

木造住宅を建築する上で、構造材に加工線をつける作業の墨付け。
指矩(さしがね)は墨付けを行うための道具です。

・木造に使用される軸組の墨付け

芯墨の必要性について

現在は、正確に加工された材料を使用することが多いですが、本来は丸太や製材したままの不正確な材料を使用していました。

正確に加工されていない木材には基準がありませんので、正確に家を建てるため、木材一本一本に基準となる芯や水(水平)を設定します。
設定した芯を基準にすることで、丸太などの不正確な木材でも正確な軸組を作る事が出来ます

墨壺の使い方についてまとめたページはこちら

芯や水は、線ではなく面

芯は材木の内側に仮定する垂直の平面です
設定した垂直面が材木表面(上下)に行き着いた部分が芯墨になります。

水墨も桁天(垂木下)を基準とした水平の平面です。
木材内の面と面の交点(線)を木材の外の墨によって表しています

※正確に加工された木材への墨付けは芯を省略できます。

継ぎ手や仕口の形

継ぎ手とは軸組で桁などを直線的に繋げるための加工で、仕口は直角(材料の側面から)繋ぐ加工です。
軸組で使用される継ぎ手や仕口は15㎜(30㎜)を多用する形になっていて、指矩(さしがね)の幅(15㎜)を使用して墨付けを行います

・指矩(さしがね)は持って使う道具

指矩(さしがね)は、ずっと左手(聞き手の逆の手)で長手の真ん中あたり持って使用します。
※端(角付近)を持つと材料が曲がっている場合に対応できません。

常に摘まんだ状態で使用できるように指矩(さしがね)は柔らかく、摘まみながらでもズレないように角部分や外側が膨らんだ形状になっています。
正確かつ、素早い墨付けを行うための道具が指矩(さしがね)です

※硬い定規では、摘まんでいると線が引けませんし、時間がかかります。

・曲がっても正確性を維持

指矩(さしがね)は、厚み方向に曲がっても、幅方向の正確性を維持できるようになっています
凹凸のある木材でも、指矩(さしがね)を反りに合わせて曲げることで正確な墨を出していきます。

※曲げる場合には指矩(さしがね)面の角度や、墨差し(墨をつける道具)の角度に注意します。

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本来の目的・2 角度を出す

規矩術基本図の解説

・直角三角形の辺の比で表す角度

指矩(さしがね)は直角三角形の辺(斜辺以外)の比を利用して、角度を測りつける道具です。
現在の建築も大工が使用する勾配で設計されています。

屋根勾配

日本の木造建築では一般的な角度(円周の360等分した角度)は使用せず、10:▢の勾配
が使われます。

10:▢の勾配は、水平距離で高さが求められるため、小屋組みが容易です。

現場で使える面材の勾配カットのコツについてのページはこちら

筋交いの勾配

筋交いは軸組を取らす上に固めるための斜材です。
斜めに収まる筋交いも、横架材間の内寸と、柱間の内寸で角度や長さを求めるができます。

※材が曲がっている場合などは、反って手間がかかることもあり、主には別の方法で行います。

筋交いなどのプレカット材の扱いについてまとめたページはこちら

階段の勾配

階段も踏面寸法と蹴上寸法で角度や長さを求めます。
周り階段の側板の勾配も、側板内寸法と蹴上寸法で求めることができます

※周り階段の踏面は30度なので指矩(さしがね)は使用しません。(芯を一辺として、正三角形を書き出します。

階段の原理についてまとめたページはこちら

さしがね一本でまわり階段の墨付け!プロ用!

・斜めと斜めが合わさる勾配

隅木のイラスト

隅木について

隅木は寄棟屋根などの斜め角の材です。

45度(平面上)の隅木に対しての垂直線は指矩(さしがね)の裏目の尺(10√2)に屋根勾配で測り出すことができます
隅木は45度(平面上)に収まるので、垂木(屋根の下地材)や野地板(屋根板)の隅木との収まりが複雑になります。

このような複雑な勾配を出すために、規矩術という大工独自の数学があります。

・規矩術(大工独自の数学)について

規矩術は古来(奈良時代くらい)から日本に伝わる方法で、聖徳太子が日本に持ち込んだとも言われています
直角三角形を組み合わせた多角形で屋根の形状を表し、その辺の比で角度を求めます。

また、平面図から材の側面図を引き出し、材の展開図を作る方法などがあります。

規矩術について詳しくまとめたページはこちら

一級技能士課題の原寸規矩術について解説した動画はこちら

勾殳玄について

勾殳玄というのは規矩術の中でも一般的な45度(平面上)の隅木においてのみ使用できる数学の公式のようなものです。
10:▢の直角三角形に直角線を足して基本図を作り、その辺の長さの比を指矩(さしがね)で測りだす方法です。

主に配付け勾配や、破風(茅負)の勾配などを簡単に求めることができます

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よく紹介されている指矩の間違った使い方

さしがねの間違った使い方

・30度・60度を指矩(さしがね)で出すこと

そもそも大工は30度や60度は使用しませんので、日本の指矩(さしがね)の使い方でありません。
実際に現場で45度のトメ(67.5度)などを切ることもありますが、無理せず分度器(丸ノコ定規など)で出せばいいと思います。

・丸目の目盛り

これは間違っているわけではありませんが、丸目は指矩(さしがね)本来の目盛りではありません
日本の木造建築の文化では正確な円柱状の材料を使用することがありません。

※鉄工用の目盛りなのではないでしょうか。

・指矩(さしがね)を曲げてアール墨を引く

プロの大工は、指矩(さしがね)を曲げてアール墨を引くということは絶対にしません
指矩(さしがね)が曲がって使えなくなる可能性がありますし、大工はそんないい加減な墨で加工しません。

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指矩(さしがね)のもう一つの役割

さしがねは三種の神器の一つ

建築では起工式や上棟式など、神事を行います。
上棟式では、三種の神器(さしがね・ちょうな・墨壺)を飾るなど、大工は神事に関わる職業でもあります。

三種の神器の一つである指矩(さしがね)は大工にとって特別な道具の一つですので、そんな意味でも大事に扱う道具です。

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最後に

いかがでしたか?
指矩(さしがね)は実際によく使う道具なので、現実の作業効率を考えて選べばいいと思います。
さしがねの奥の深さに興味を持ってもらえたらうれしいです。

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