本当は難しい【プレカット材の納め方】特徴や注意点をプロの大工が解説!

大工の技術低下の原因とも言われているプレカット材の扱い方について

みなさんはプレカット材を100%の品質で納める自信はありますか?

プレカットは普及したことによって大工の技術低下の原因とされていますが、近年の建築に欠かすことのできない技術です。

プレカット材は簡単に組み立てられると思われがちですが、扱ってみると手加工材よりポイントが複雑になります。
そこで今回はプレカット扱い方や付き合い方についてまとめました。

このページでご紹介するの内容は施工効率や仕上がりを計画する上でとても重要な部分なので、理解できると大きく上達できるはずです。

後半ではプレカット筋交いの具体的な納め方についても解説しています。

目次

作成者プロフィール

説明用動画

プレカットと大工について
・プレカット技術と建築について
・大工の技術低下との関係
・プレカットと大工の関係

プレカットの特長について
・プレカットのメリット
・プレカットのデメリット

プレカット加工が可能な部材
・構造材や屋根材
・近年プレカットが普及した部材
・造作材など
・プレカットができなかった部材

プレカット材の扱い方
例1・羽柄材の扱い方
例2・ピン工法の注意点
・プレカット打ち合わせについて

最後に

建材や金物についてのまとめページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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プレカットと大工について

プレカット技術によって向上した建築技術

プレカットが大工や建築に与えた影響について

・プレカット技術と建築について

プレカットはもともと在来の構造材の刻みを工場で加工することから広まった技術ですが現在は鉄骨やプレハブなどの工法と組み合わされた工法も普及しています。

ピン工法

仕口や継ぎ手の代わりに金物を使用して組み立てと同時に引き抜き防止の固定を行う工法。
比較的在来工法に近く一般の工務店でも採用されています。

ラーメン構造(SE工法)

鉄骨で用いられるラーメン構造(部材同士の豪結合)によって耐力を得る工法。
この方法は耐力壁が不要になるために大きな開口(窓開口など)を設けることができる工法で、大手のハウスメーカーなどで採用されています。

工場生産(プレハブ工法)

建築物に収まるほとんどの部分(外壁や設備などを含む)を工場で製造し、現場では組み立て鑿を行う工法。
この工法は鉄骨製が多いのですが木製のタイプもあります。

・大工の技術低下との関係

プレカットの普及が大工技術に影響した項目についてまとめました。

刻み技術の伝承

プレカットのみで新築を建てる会社では刻み技術が不要になりました。
プレカットが普及して20年以上になり、墨付けや刻み技術を教えられる大工さんも年齢と共に減りました。

木の性質や原理の知識

プレカットは工場生産とはいえ木造であることに変わりはありませんので、歪みや曲がりで起きる不具合を直すために刻みや墨付け技術が必要です。
木の性質(曲がりや割れ)の知識や刻み技術、墨付け原理の知識は、刻みを行うことで修得できる知識でしたが、プレカットの普及によって修得が難しくなっています。

木材の扱い方や特徴についてまとめたページはこちら

・プレカットと大工の関係

プレカットと大工技術の関係についてまとめました。

在来工法について

日本の在来工法は工場で部材を準備し建前の段階でまとめて組み立てる文化があります。
工場加工か作業場で加工しているかの差があるものの、この考え方はプレカットそのものです。
プレカットが普及以前も加工機械や刻み機械が急激に進化していたので、手加工の場合でもほぼ機械で加工を行っていました。

※アメリカ発祥のツーバイフォー工法は何日もかけて骨組みを加工しながら組み立てます。

プレカットを使用した新築の建て方作業についてまとめたページはこちら

プレカットの必然性

現在プレカットで行っている加工は大工なら誰もが行っていた加工です。
現在プレカットが普及していなかったとしても、プレカットを考え出す大工はいくらでもいたはずです。

大工の計算機ともいえるCADの使い方についてまとめたページはこちら

プレカット時代の大工の必要性

プレカットを考え出したのは大工です。
プレカットが普及しても改善し続けより効率的な工法を考え出すために大工が必要です。

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プレカットの特長について

プレカットへの需要と原理について

プレカットのメリットやデメリットをまとめました。

・プレカットのメリット

値段の低下

経費(工賃を含む)の減少や大工育成費の減少によって建築費が低下します。

工期の短縮

加工場での加工はもちろん、建前から雨仕舞までが早くなり天候の影響を最小限に抑えることができます。
工程が組みやすくなり効率化が図れます。

現場ゴミの減少

必要な量だけ納入できるプレカットは現場のゴミを減らす効果もあります。
現在、産業廃棄物の処理費は高騰し続けていますので処理費を減らせるとともに、現場が片付き施工効率が上がります。

間違いの減少

切り間違いなどは材料代以外に工程の見直しや処理費がかかります。
お客さんからの印象の悪化も懸念されるため間違いを減らせることも大きなメリットとなります。

お客さんが求める工事についてファイナンシャルプランナー目線でまとめたページはこちら

・プレカットのデメリット

材料に精度が左右される

木材のプレカット精度は材料の精度に大きく影響を受けます。
大工が芯墨を打って組み立てる場合には曲がった材料でも精度良く組み立てることができますが、加工精度が高い材料であることを前提で加工されているプレカットは数㎜ずつズレが生じます。

木材は樹脂や金属と違い曲がり、割れなどが起きる材料です。
集成材でも商品によって品質(加工精度)が異なります。

作業によって効率性が変わる

現在の建築現場では石膏ボードやサイディングはプレカットされていません。
これはプレカットが不可能なわけではなく効率が低いので手加工で行っています。
石膏ボードやサイディングといった材料は特徴として、比較的扱いやすく、部材数が多く、部材サイズの差が大きいことが挙げられます。
このような特徴の材料(作業)の場合にはプレカットは不向きとなります。

建築物に対する価値観の低下

プレカットの普及によって大工の権威性が下がるとともに、一般の方や住宅メーカーからの建築物への価値観が低下しました。
問題は一般の方や住宅メーカーだけではなく、大工自身も自らに手掛ける建築物にたいして価値が低いと考える方が多くなっています。
大工は高価な建築物でもローコスト住宅と呼ばれる建築物でも責任や姿勢は同じです。
35年ローンを組んで買う夢のマイホームを扱っている責任は忘れてはいけません。

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プレカット加工が可能な部材

木造住宅の構造イラスト

・構造材や屋根材

構造材

最もよく見かける桁梁や柱などの構造材のプレカット。
長尺梁や上り梁、丸梁など特殊な加工が可能な工場もあります。

床合板

床版と呼ばれる床下地材(根太)と、捨て貼りベニヤと火打ち(水平耐力用斜材)の機能を兼ねる24㎜(又は28㎜)の構造用合板のプレカット
これによって建前時に床下地(足場)ができます。

床合板の扱い方(土台敷きの方法)についてまとめたページはこちら

屋根材

屋根に使用する隅木や垂木、野地板などもプレカットが主流です。
近年の木造住宅は雨仕舞のため野地板(屋根板)までを建前日に行うのが一般的です。

・近年プレカットが普及した部材

羽柄材

プレカットでは羽柄材と呼ばれる間柱、筋交い、窓まぐさ(窓の下地材)のプレカットはここ10年ほどで多く見られるようになりました。
羽柄材は構造材と比べて材寸が小さく曲がりが出やすいので、プレカットのデメリットが出やすい部材なのですが、近年の新築需要の低下による価格競争によって低価格帯のメーカーから採用されました。

断熱材

床(基礎)用発泡系断熱材もプレカットが増えています。
特に残材が処分しにくく、加工精度が気密性能に直結する部材なのでプレカットと相性がいい部材です。

パネル工法

プレカット部材を組み合わせたパネルを建前時に固定する工法もあります。
羽柄材、耐力面材、断熱材を一体にした部材を工場で製作し、組み立てた構造材の間に納めることで在来工法と同様の構造物を組み上げる工法もあります。

※この方法はあくまでも木造軸組み工法(在来工法)なので、プレハブ工法ではありません。

・造作材など

造作部材もプレカットが多くなっています。
サッシ用の窓枠や階段などはほぼプレカットです。
特殊なものになると軽天(天井下地)や床柱もプレカットできるそうです。

プレカット階段の原理についてまとめたページはこちら

・プレカットができなかった部材

前記したように石膏ボードやサイディングはプレカットに不向きで大工が手作業で施工を行います。
フローリングや木下地なども同様です。

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プレカット材の扱い方

プレカット材ならではの扱い方

プレカット材は部材によって手刻み部材と扱い方が異なる場合がありますので、特に特徴的な扱い方の部材をご紹介します。

例1・羽柄材の扱い方

羽柄材(間柱、筋交い、窓まぐさ)のプレカットは、仕上がり精度とお客さんや住宅メーカーの希望のバランスをとるように施工する必要があります。

羽柄材を使用する目的

羽柄材をプレカットする目的は、迅速な雨仕舞いによって構造部を雨から守ることです。

羽柄材の問題点

羽柄材は造作壁の仕上がりや構造に直結する部材ですので、本来は曲がりや大きさなどを吟味して材料を選び、正確に加工を行い微調整して納めます。
羽柄プレカットの目的である迅速な雨仕舞いを行うためには本来造作壁を正確に作るためにはふさわしくない材料を使用せざるを得ない状況が生まれます。

二つの目的のバランスをとるためには熟練の勘や微調整を迅速に行える技術が必要になり、大工の熟練度によって仕上がりに差が出る場合があります。

羽柄材の納め方について

1・各場所へ配る

羽柄材も柱などのプレカット材と同様に番号を確認して各場所に配ります。
積みあがった場所で広げる方もいますが、広げても効率は上がりませんのでとりあえず配ります。

※筋交いを配る場合には場所にはめると固定されていると勘違いした大工さんが掴む場合があり非常に危険なので、すぐに釘止めを行います。

2・間柱の桁、梁部の調整(固定)

間柱や窓台は内壁の仕上がりに影響するので、出入りを調整して固定します。
そのうち間柱は出入りを確認する基準があいまいなので、定規を当てて確認をします。
定規での確認の際に釘を1本固定しておくと確認や調整が容易に行えます。

壁の通り(筋交いの曲がり)の調整

筋交いの曲がりを調整する方法をご紹介します。

1・筋交い先で調整する方法

プレカット筋交いの調整で最も行いやすいのが筋交いの上下端の出入りを調整する方法です。
上下の先を動かすことで中心部分も動きます。

ダブルの筋交いでも調整できます。

2・筋交いの中心部で調整する方法

シングル筋交いの出入り調整は間柱の中心部(筋交い鍵の逆側)に桟を欠き込み、直接筋交いの曲がりを押す、又は引っ張ることで調整できます。

3・金物の構造を利用して調整する方法

上記二つの方法でどうしても調整できない場合には筋交いプレート(筋交いの構造強度を補強する金物)を使用して調整することも可能です。
近年よく使用されている筋交いプレートは筋交い先から30cmほど内側(中心部側)に固定するタイプなので、金物を支点にして筋交いの先を出入りすることで中心部が逆に曲がります。

※この方法は無理な力をかけるのであまりお勧めの方法ではありません。
どうしようもない時の調整にのみ、活用してください。

例2・ピン工法の注意点

ピン工法は精度のいい材料を使用し構造上全ての材が引き寄せられるので、比較的造作の精度が簡単に出せる工法ですが、注意が必要な特徴があるのでご紹介します。

仕口の遊び

ピン工法の場合、柱の仕口は材同士が引き寄せられている物の若干の遊びがあります。
特に柱や小梁(桁間をつなぐ105㎜角)の回転はせっかくの精度を落とすので、調整が必要です。

調整の方法

小梁の場合は床合板を張る前に調整し釘で固定します。
柱の場合は間柱の固定時に通り(向き)を確認し間柱と同様に固定します。

・プレカット打ち合わせについて

プレカットは基本的にプレカット業者(材木屋さん)と事前に打ち合わせを行います。
垂木の本数や必要柱の追加、羽柄材の効き具合など

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最後に

いかがでしたでしょうか?
プレカットの特徴を把握することで、効率よく精度の高い建物を作ることができます。

プレカット材を確実に利用するためにも加工技術(墨付け刻み)に目を向けていただけると嬉しいです。

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