墨壺(すみつぼ)の使い方【プロの大工用】コツを知るだけで簡単修得!

墨が曲がる原理

墨壺は大工が定規を使用せず直線を引くための道具で今も昔と変わらない原理のまま利用されています。
墨壺は体で覚える系のスキルではなくコツを知っているだけで正確にきれいな墨を打つことができます。

そこで今回は、一級技能士でもある作成者が技能検定や実務で見つけた墨壺のコツをまとめてみました。

汚い墨を打つ大工さんは不器用に見えてしまいます。
とても簡単なコツなのでDIYがお好きな方も試してみてください。

The English version of the article [Don’t know about ‘Sumitsubo’, Japan’s ink line? Let me introduce its convenient uses] is available here.

目次

墨壺(すみつぼ)画像
作成者プロフィール

説明用動画

墨の特徴や役割
・墨の主な役割は加工線
・墨は綺麗な方が良い

墨壺の使い方とまっすぐ打つコツ
・墨壺の基本的な使い方
・凹凸面に直線を引く
・墨をまっすぐ打つコツ(手袋はダメ)
・まっすぐ打つために気を付ける事

技能士試験での小技の紹介
・技能士の課題について
・綺麗な墨を打つ方法
・墨の濃度を調整する
・効率良く芯墨を打つ方法

墨壺の手入れのコツや注意点
・水の足し方
・使用上の注意点

墨壺の選び方
・水の足しやすさ
・墨の色について
・糸の太さについて
・墨壺の大きさ
・カルコの選び方

最後に

大工道具(手道具)についてのまとめページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

14.墨壺(すみつぼ)の使い方【技能士試験用】すぐに差が出る!

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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墨の特徴や役割

墨の特徴について

大工は墨壺以外にも様々な道具を使用して墨をつけます。
墨の根本的な役割や特徴を理解することが、墨壺を使いこなす近道になります。

・墨の主な役割は加工線

墨の主な役割は加工線です。
加工線の他にも基準線や、指示線、番付(名前)などがあります。

加工作業は、墨をつけた人と別の人が加工することも多く、加工の担当者が一目でわかるように、わかりやすい墨をつける必要があります

・墨は綺麗な方が良い

家は寿命が長くリフォームなどを行うと、昔の大工さんの墨が出てきます。
墨付けは、棟梁(現場統括者)が行う場合が多く、棟梁として建築に携わった証でもあります。

精度の良い墨は美しく、だれが見ても気持ちがいいものですので、大工を志す以上は、美しい墨を残すことは、是非こだわってほしいポイントです
タジマ パーフェクト墨つぼ( 青 )
作成者が愛用している自動巻き取り式の墨壺です。
カラーバリエーションも豊富なので好きな色を選べます。

サシガネの使い方についてまとめたページはこちら

墨差しの使い方や作り方についてまとめたページはこちら

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墨壺の使い方とまっすぐ打つコツ

墨が曲がる原理

・墨壺の基本的な使い方

墨壺の原理

墨を含ませた糸の端を端点に合わせて引っ張り、墨糸を摘まみ上げて弾き戻すことで、糸の墨が材料に叩きつけられて墨が付きます。

基本の使い方

カルコ(糸を木に固定するピン)側の糸は、カルコ針に2~3回巻き付け、始点からズレないように調整して固定します。
カルコの固定は、糸を強く引っ張る際に、抜けや、ズレが発生しないように針先を墨壺側に向け、しっかりと差し込みます

墨壺側の糸は、テンションをかけても糸巻から引き出されないように強く摘まみ、親指の先で終点に押さえつけて固定します。
墨糸は放置すると乾くので、乾く前に打ちます。

・凹凸面に直線を引く

墨壺は凹凸がある面でも正確に直線を引くことができます

墨壺の原理上、端点から引っ張った点の3点を通る面と材料(仕上げ面)の交点に墨が付きます
この原理を利用して、丸い梁などに、芯墨(基準平面と材料表面の交点線)を素早く引くことができるのです。

※リフォームなど仕上げ面の向きが歪な場合は、どの方向の直線(面)が必要なのかを常に判断する必要があります。

・墨をまっすぐ打つコツ(手袋はダメ)

墨壺は素手で使用する

墨壺は素手で使用しないと直線が引けません。
手袋をつけていると、墨糸を引っ張る際に糸が回転してしまうので、墨が曲がります

長いスパンの墨打ちでは、少しの回転でも墨が曲がってしまいますので、引っ張り上げた墨糸に回転やひねりが加わらないように注意しながらリリースします

投げ(曲げ)墨について

墨壺は直線を引く道具ですが、曲がった線を引くこともできる道具でもあります
現在曲がった墨が必要になる機会は滅多にありませんが、直線を引きたいときに曲がってしまわないように、曲がる原理を理解しましょう。

墨を曲げる技は調べたのですが、技名が分かりません。
実は非常に難しい技で、実務で使用するには一発で狙った寸法に曲げる必要があり、なかなか出来るものではありません。

※九州では投げ墨と呼んでいましたが、大工用語で別に投げ墨という角度があるので、おそらく別の呼び方があると思います。

墨の曲げ方

墨打ちの際に、持ち上げた墨糸を指で回転(上側が進行方向になるように)させます
打つ際には、曲げたい方向へ墨糸を投げるイメージでリリースします。

原理は詳しくはわかりませんが、カーブのような現象が起きて綺麗な曲線の墨が打てます

曲線墨はいつ使用するのか?

加工後の反りや屋根の重さ、収まりなどを考慮して加工基準線を調整します。
主には曲がった木材への、芯墨や水墨などの基準墨を打つ場合に使用します。

何も考えずにまっすぐに打った芯墨は、収まりや施工性が悪くなることがあります

・まっすぐ打つために気を付ける事

墨壺は様々な状況で使用するので、状況に合わせた注意が必要です。
風が強い場合には、糸が流されることがあります。

あまり長いスパンの墨打ちでは、精度が落ちやすくスパンの中程で抑えて前後に分けて打つなどして精度を確保します。
水平に墨を打つ場合には下がりにも注意します。

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技能士試験での小技の紹介

一級大工技能士試験でのコツ

一級大工技能士試験などで行う墨付けスキルを紹介します。

・技能士の課題について

本来技能士試験は、技能五輪や技能グランプリの地区予選大会ですので、課題は技能競技用の課題になっています。
課題は墨を消さずに残す仕上げで、墨壺と墨差しで行います。

※鉛筆などは禁止されています。

技能士試験を一発で合格するためのコツについてのページはこちら

・綺麗な墨を打つ方法

墨壺で墨を打つと、余分な墨が周りに飛び散ります。
打つ前に、糸に付いた余分な墨を絞った雑巾で拭き取ると、鉛筆で引いたようなシャープな墨が打てます

手についた墨も常に拭き取ることで、無駄な汚れも抑えられます。

・墨の濃度を調整する

墨差しは墨壺の墨を使用します。

実は、一般的に使用されている墨の濃度は、かなり濃いことが多く、適正な濃度に薄めるだけでかなり使用しやすくなります
濃度の目安は、グレーの線(鉛筆の濃さ)が打てるぐらいです。

薄めることで、手や材料の汚れが減るだけでなく、薄めた分だけ墨差しの墨持ちが良くなり、作業性が向上します。(3倍に薄めると墨持ちも3倍になります。)

・効率良く芯墨を打つ方法

たくさんの材料に芯墨を打つ場合に、カルコの抜き差しや、墨の拭き取りの数を減らす方法があります。

材料の両端の芯部分に鑿などで切り込み(糸が引っ掛かる溝)を入れます。
加工台にカルコを刺した状態で、材料を糸に合わせて交換しながら墨を打ちます。

一度余分な墨を拭きとると、3~5回は打つことができますので、効率よく綺麗な墨を打つことができます。

大工技能士試験で使えるコツをまとめたページはこちら

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墨壺の手入れのコツや注意点

水を足す糸巻について

・水の足し方

墨壺は乾燥すると使用できないので、頻繁に水を足して使用します。

墨壺の墨溜部分に水を足すと、墨の付きや濃さがまばらになり汚くなります。
水を足すときには、糸巻部分の糸に水を染み込ませるようにします

・使用上の注意点

墨壺を使用する上で、針のついたカルコの扱いには注意が必要です。
糸を強く引っ張った状態でカルコが外れると、勢いよく引っ張った方に飛びます

・一人で扱う場合には、抜けないようにカルコを確実に差し込むこと。

・二人で扱う場合には、カルコをしっかりと握って持ち、誤って離さないようにしましょう

墨出し用道具についてまとめたページはこちら

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墨壺の選び方

実務を考慮した墨壺選び

墨壺は実務でも頻繁に使用するので、実務を考慮した墨壺の選び方を紹介します。

・水の足しやすさ

夏季には毎日のように墨壺が乾燥し、給水が必要になります。
糸巻部分へ給水する場合、自動巻き取りの墨壺は、メーカーによって扱いやすさが違います

タジマのパーフェクト墨壺は糸巻部分の給水を行うための脱着や、バネの巻き直しが非常にスムーズにできるようになっているのでおススメです。

・墨の色について

高儀 建築用 墨汁 180ml
墨は書道で使用するの墨汁のようなものです。

ベーシックなのは黒ですが、化粧材には目立ちにくい朱墨をします。
湿った材料への墨打ちでもにじみにくい性質の墨など、様々なものが売られています。

・糸の太さについて

墨壺の専用糸は、墨持ちが良く、若干伸びます。

墨壺用の糸は、太めのものをおススメします
細い糸は、長く巻き取れるのですが、ほつれや切れなどのトラブルが多く、墨打ち時の乾燥も早いので使いづらいです。

・墨壺の大きさ

最近は持ち運びに便利な小さい商品もあり、専用のホルダーなどもあります。

僕は持ち運ぶ必要性を感じないので、使いやすいベーシックなサイズを使用しています

・カルコの選び方

タジマ コンかる(3本組)
作成者はコンクリートに打ち込める丈夫なタイプを使用しています。
※このタイプは針先が尖っていないので木部に使用する場合には研ぎ直す必要があります。

刺さり防止付きのカルコは安全ですが、精度が悪く、非常に扱いづらいため、本職では使用できません。

小さいカルコは摘まんで刺すので力が入りづらいので、握り込める大きいサイズのカルコを作ると刺しやすく、万が一外れた時も飛んで来る勢いが遅くなるのでおススメです。

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最後に

いかがでしたか?
墨壺のスキルは簡単な割に見栄えがいいので是非修得してください

これから技能士試験を受験される方は、是非上記の技を試してライバルに差を付けてくださいね。

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