階段の収まりや規定【プロ用】プレカット階段の墨出しや注意点

階段の原理の解説

階段の取り付けは大工作業の中でも「一人でかけられるようになったら一人前」と言われることがあるぐらい難しいとされている作業です。

とはいえ木造住宅の階段は様々ですが原理は非常にシンプルです。

基本を理解していればどんな階段でも応用することができますので、今回は基本的な階段の収まりや規定とプレカット階段の納め方についてまとめました。

目次

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説明用動画

階段の基本
・均等な割付け
・蹴込み部分について
・滑り止め
・段板の水平

住宅階段に関する建築基準法の規定
・有効幅の規定
・蹴上寸法の規定
・踏面寸法の規定
・階段手摺の規定

階段の種類や収まり
・階段仕上げの種類
・ササラ階段について
・間取りとの兼ね合い
・イレギュラーなパターンの対応

プレカット階段の特徴
・プレカット階段(側板)の原理(現寸)
・直階段の原理
・廻り階段の原理
・全体の長さ(幅)を調整できない
・全体の前後調整は可能
・高さは下端しか調整できない

階段の墨出し
・垂直(矩)の墨出し
・レベル墨の墨出し
・墨出しを行う理由

施工上の注意点
・絶対的な強度
・仕上がりの美しさ
・床鳴りの防止

イレギュラーな収まり

最後に
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記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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階段の基本

階段の基本は実は非常にシンプルです。

直階段・廻り階段問わず全ての階段に共通する基本についてまとめました。

・均等な割付け

蹴上と踏面の図蹴上を均等に

階段は段差(階高)を段数で割り、一段の高さを均等に割りつけます。
均等に割った一段の高さを蹴上(けあげ)と呼びます。

※60cmの段差の場合、3段で割ると一段の蹴上が20cmになります。

踏面(ふみ幅)を均等に

階段は階段のスペースを均等に割り、踏み幅を設定します。
均等に割ったふみ幅を踏面(ふみづら)と呼びます。

※60cmの段差に3段の階段をかける場合、一番上の段(上がり框)に踏面が必要ないため踏面は2段(1段少ない)で割って求めます。

結果的に段鼻がそろう

高さと幅を均等に割りつけることでおのずと段鼻(段の先)の通りが揃います。
加えて段鼻先のピッチも均等になります。

均等に割っていない階段の問題

上り下りを行う階段は住宅の中でも危険な場所です。

均等割りが行われていない階段はツマヅキや店頭の危険が高くなります。

・蹴込み部分について

階段部分の垂直な板(上る際につま先が当たる部分)を蹴込板と言います。
階段には一般的に蹴込部分(段先より蹴込板を控える)を設けます。

近年の木造階段の蹴込部分は段板が3cm突き出した収まりが一般的です。

蹴込み部分の必要性

蹴込部分を設けることで上足と下足の段板が重なるので自然に上り下りができます。

蹴込部分がない階段はカカトやつま先が蹴込板に当たるため、上り下りはできますが不快に感じます。

段板が厚い場合の注意点

リフォームなどで段板や上がり框の厚みが太くなる場合があります。

段鼻下角と下段の隙間が小さい場合、降りる際にカカトがすれてケガをする可能性がありますので段鼻下角には面取りなどの加工が必要です。

・滑り止め

階段には滑り止めが必要です。
特に無垢材の階段の場合は、住み続けるうちに階段上端がツルツルに磨かれます。

このような階段は靴下で歩くと非常に滑るので危険です。

・段板の水平

当たり前のことですが段板は水平に納めます。

階段の取り付けは様々な部分で調整しながら行いますが、その中で絶対に行ってはいけない調整が段鼻を下げることです。

段鼻が下がった階段は転倒しやすく不快(2㎜下がりでも足裏で感じます)です。

※屋外階段は水はけの関係で段鼻下がりです。

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住宅階段に関する建築基準法の規定

階段は避難経路にもなるので建築基準法に一定の規定が設けられています。

建築基準法の階段規定は建築物の用途ごとに異なりますので、住宅用階段についての規定をご紹介します。

・有効幅の規定

階段は避難経路でもあるため有効幅(壁内寸法)が750㎜以上必要です。

※手スリについては壁内に突き出る形になりますが、一般的な手すりには除外規定があります。

※有効寸法を階段側板の内側で測ると思っている方がいますが、避難のための規定なので側板の内寸は関係ありません。

・蹴上寸法の規定

住宅の階段の蹴上(一段の高さ)は230㎜以下と規定されています。

※近年は200㎜前後に納めるのが一般的です。

・踏面寸法の規定

住宅の階段の踏面は150㎜以上と規定されています。

※この踏面寸法には段鼻の突き出しは含まれないので蹴込部分が30㎜の場合は段板幅は180㎜以上となります。

廻り階段の場合には軸柱(廻り軸)の壁仕上がりから300㎜外側の位置で測るという規定があります。

※この規定によって昔は多くみられた「900間で4段廻りの周り階段」は作られなくなっています。

・階段手摺の規定

一定の高さ(1m)以上の階段には手すりが必要という規定があります。

高さに規定はありませんが、一般的に700㎜~750㎜の間でお客さんに合わせて(バリアフリー工事の場合、手すりの高さは重要視されます)取り付けを行います。

※図面に手スリの高さが記入されている場合は手スリの上端で合わせます。

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階段の種類や収まり

ササラ階段と箱階段の原理図

階段の取り付けが難しいとされる理由の一つが、階段にはたくさんの種類や収まりがあることです。

ここでは比較的メジャーなパターンの階段の収まりについてご紹介します。

・階段仕上げの種類

箱階段

蹴込板を収めて階段と壁が一体化した階段を箱階段と言います。

化粧側板に段板を収める側板階段や段板丈夫に幅木を取り付ける幅木収まりがあります。

ストリップ階段

蹴込板を取り付けない化粧階段をストリップ階段と呼びます。

はしご状に段板の両端に側板を収めるハシゴ階段や、段板の下からササラ桁で支えるササラ階段などがあります。

その他化粧階段

階段の側面をひな壇状に納めた階段をひな壇階段と呼びます。

・ササラ階段について

ササラ階段は箱階段との複合で用いられることが多く、取り付けるためには下地(ササラ桁を取り付ける躯体)から計画的に形を作り、階段裏の壁やフローリングの施工を考えた施工順序で施工する必要があります。

このような複雑な階段でも高さや踏面を合わせるというシンプルな基本が最も重要になります。

・間取りとの兼ね合い

階段は大きなスペースを必要とするため建築物の間取りに影響されます。

例1

階段上り口に建具が収まる場合には一段目と建具枠が絡む場合があります。

例2

廻り階段の軸柱が「立枠収め」や化粧柱をしようする場合などは軸柱に段板や蹴込板が絡みます。

例3

階段下スペースが洗面所などの居室の天井や枠に関わる場合には、本来管柱に固定できるはずの側板が宙に浮く状態になる場合があります。

例4

軸柱の下部分に階段下収納の開口部が来るような場合には鴨居上に骨材を入れて軸柱を支えます。

・イレギュラーなパターンの対応

取り付ける階段特有の問題を解決するためにも階段の特徴を深く理解するとともに、調整方法や躯体(下地)の施工方法について把握する必要があります。

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プレカット階段の特徴

近年主流のプレカット階段

近年の住宅施工では階段はプレカットが主流です。

ここではプレカット階段の原理や特徴について解説します。

・プレカット階段(側板)の原理(現寸)

廻り階段の側板は平面図と側板側面図で表します。

平面図

平面図についての解説図平面図には壁の仕上がりや側板の厚み、踏面、ケコミ面を表します。

側板側面図

側板側面図の解説図側板側面図には段板や蹴込板の断面や側板を表します。

側板側面図(立面)は廻り階段では2面以上になり、複数の側面図を平面図上の側板の入隅で合わせて横に並べます。

・直階段の原理

直階段は基本通り均等に割って設定した蹴上と踏み面によって勾配が決まります。
勾配に合わせて側板を設定します。
※一般的なプレカットの場合、段鼻から垂直に5cm上がった点が側板上端に設定されています。

・廻り階段の原理

廻り階段の原理解説図蹴上や蹴込の収まり

廻り階段も蹴上や蹴込の設定は直階段と変わりません。

段板の踏面の設定

踏み面については「廻り始め」と「周り終わり」の角度を均等に割りつけます。

※蹴込芯の場合は蹴込ラインで割付けを行います。

側板の勾配や収まり

側板も「廻り始め」と「周り終わり」の段鼻位置(直階段に合わせた高さ)で設定した点を直線で引きとおします。

※側板の入隅部分は上端で同じ高さになり、2枚の側板は同じ勾配になります。

側板に対する廻り段板の位置

側板にかかる段鼻や蹴込のラインは平面図上の同接点から引き出して求めます。

・全体の長さ(幅)を調整できない

プレカット階段は上部から下部まで加工されているため全体の長さは調整できません。

プレカット階段の側板は複数の部材で構成されていて、大工がカットして接合します。

手作業で取り付けを行うとはいえ、接合する互いの部材の距離は決まっているので調整することができません。

・全体の前後調整は可能

プレカット階段は全体の距離を変えることはできませんが、全体的な前後配置を調整することができます。

※側板の接合部が全て加工されているスーパープレカットの場合は調整できません。

直階段の前後調整が可能なことはわかると思いますが、廻り階段でも前後調整が可能です。

廻り階段側板の入隅部は出入りによって「段板から側板上端の距離」が変わります。
後で据える上側の周り側板は先に据えた側板の「段板から側板上端の距離」に合わせて据えるので、直角に接合されているとはいえ先に据えた側板の前後調整通りに収まります。

※前記した建具や化粧軸柱などが絡む場合に前後調整が必要です。

・高さは下端しか調整できない

一般的に上段框までプレカットされているので高さが調整できるのは下部(下階のFL)だけになります。

廻り階段は一般的に下の側板から取り付けを行いますが、後で据える上部の側板で高さを調整することはできません。

階段の原理上、上段框や「下階のFL」の左右のレベルが違う場合、階段全体のネジレや歪みにつながりますのでレベルと矩を別々に確認して直します。

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階段の墨出し

プレカット階段の特徴に沿った墨出しについてご紹介します。

・垂直(矩)の墨出し

矩(直角)の確認

階段をかける前に階段スペースの矩(直角)を確認して基準を設定します。
階段は上下の段板のネジレが目立ちやすく、軸柱と廻り段板の取り付けは少しのズレも許されません。

軸柱を通る矩を想定してX、Y軸ともに100㎜程オフセットさせた位置でレーザー墨出し機を据えます。

上下階のフローリングの矩(通り)を確認しておくことで階段とフローリングの収まりを調整します。

垂直の墨出し

先ほど100㎜オフセットさせて据えたレーザーから100㎜戻して「軸柱芯を中心にした矩」を垂直に上げた墨を壁に出します。

一段目や上段框の蹴込部分や側板の継ぎ手、軸柱などに出します。

・レベル墨の墨出し

階段の取り付けには水平墨を出します。

レベル(水平墨)は上段框を基準(両端を確認)に側板の継ぎ手や軸柱、一段目にもつけます。

墨出しの方法

レベルの墨出しは複数の箇所につけるため尺竿を利用します。
桟に対して段板の上端と下端を書き込んだ定規をレーザー墨出し機の水平に合わせて印をつけます。

階段の取り付けに必要な部分だけ墨壺などで結びます。

蹴上の計算方法

蹴上寸法は電卓を使用して、(階高)(÷)(段数)(+)(+)(=)(=)(=)(=)(=)と打てば簡単に計算できます。

・墨出しを行う理由

階段の墨出しは階段の取り付け時ではありません。
階段には様々な下地が必要になりますが、階段の取り付けと下地作業は段取りが異なるため下地は前もって行うことになります。

特に吊り下げ下地は絶対的な強度が必要なため、ウレタンボンドを使用するため誤って階段にボンドが付くことが無いようにします。

石膏ボードの先張り仕様などでは下地→石膏ボード→階段という順番となるためプレカット階段が搬入された時点で石膏ボードが張れている状態が理想です。

このように階段を効率よく正確に取り付けようと思うと、計画段階で正確な寸法が把握できている必要があります。

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施工上の注意点

階段を施工する上で注意するポイントをまとめました。

・絶対的な強度

階段は避難経路にもなる床ですので強度が求められます。

生活を行っていると階段を急いで上り下りする場合もあると思います。
子供であれば階段に飛び降りるなどして遊ぶことも考えられます。

階段にはそのような激しい衝撃が起きても20年以上ビクともしない強度が求められます。

・仕上がりの美しさ

階段は家の顔ともいえる部分なので見た目も重要です。

階段は玄関や和室、外観などと同様に見た目の美しさも求められます。

・床鳴りの防止

階段も床と同様に床鳴り(床のキシミ音の発生)のリスクがあります。
ボンドが進化した現代の工事では、ほとんどの場合床鳴りを完全に止めることができますので床鳴りを差せないことが当たり前となっています。

しかしストリップ階段やササラ階段などは物理的に床鳴りを止められない場合があります。

※ストリップ階段は蹴込板がないため、上り下りの際に段板がしなりが発生し、側板やササラ桁との接続部でキシミが発生します。

そのような施工を行う場合には施工前にお客さんや現場監督に説明を行って、クレームが発生しないような対策が必要です。

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イレギュラーな収まり

蹴込芯と段鼻芯の違いや5段・6段・7段廻りの違い、手スリの原理や側板上勝ちについてまとめた動画です。
Jw-cadの現寸用ツールについてもご紹介しています。

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最後に

いかがでしたでしょうか?

廻り階段やストリップ階段を問わず、基本的な収まりや決まりが変わらないことはご理解いただけたかと思います。

しかし階段は複雑な立体物なので、取り付けを行うためには平面的な原理理解だけでなく、ある程度特有の収まりに慣れる必要があります。

もし、階段の収まりに自信がないという方には模型の作成をお勧めします。
発泡スチロール系の材料での模型は簡単に作れる上、間違っても誰にも迷惑をかけません。

ぜひ取り組んでみてください。

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