建て方(棟上げ)道具の使い方【まとめ】屋起こしや風防さげふり
建前作業で使用する道具は、カケヤ・脚立・ソケット・ラチェット・建前レンチ・風防さげふり・屋起こしなどたくさんの種類があり、そのほとんどが建前作業専用の道具となります。
棟上げでの組み立て作業は複数の大工さんが集まって行うため、たくさんの大工さんの独自の技を見ることができます。
そこで今回はプロの大工である作成者が、あちこちの建て方で学んだ建て方用道具の使い方のコツや特徴をまとめてご紹介します。
建て方応援の行き来は大工にとって避けて通れないため、大工職を続ける上で組み立てスキルは欠かせないスキルとなります。
ページ後半で「一人で立ち起こしを行う方法」についても解説しているのでよかったら試してみてください。
目次
近年の建て方(棟上げ)の流れについて
・建て方とは
・近年の建て方
・建て方作業の一日の流れ
組み立て用道具について
・流れや危険性について
・カケヤについて
・カケヤの種類
・引っかけて打つカケヤ(建前かけや)
・脚立について
ボルト締め用道具について
・ボルト締めの流れやポイント
・ボルトを扱う上での注意点
・ボルト締め修得のコツ
・インパクトドライバー
・ソケットビット(19㎜)
・ラチェットレンチ(19mm)
・建前レンチについて
屋起こし(柱を垂直に起こす)用道具について
・屋起こし(立ち起こし)とは
・流れやポイント
・風防さげふりについて
・屋起こし(突っ張りタイプ)
・屋起こし(引っ張るタイプ)
屋起こし道具の使い方とコツ
1・仮筋交いの上部を固定
2・風防さげふりでの確認
3・屋起こし(突っ張り)
4・仮筋交いの固定
5・最終確認について
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
近年の建て方(棟上げ)の流れについて
・建て方とは(棟上げ)
仕口や継ぎ手が加工された構造材を組み立てる作業のことを建前(建方・棟上げ)と言います。
具体的には、土台の上に柱を立てて桁や梁を組み(上階がある場合には繰り返す)屋根組みを行います。
屋根の最も高い位置に収める構造材を棟木と言い、棟木を収めることを棟上げと言います。
・近年の建て方(棟上げ)
最近の新築では一般的に、プレカット(仕口などを工場で加工する)で加工した材料を、クレーン車で材料を吊り上げて数人の大工で組み建て作業を行います。
組み立てと同時に、床下地と水平面材を兼ねる床合板(24㎜もしくは28㎜構造用合板)を張り、棟上げ後に屋根仕舞い(野地板を張る)までを行います。
※会社によっては、工期や天気を考慮して、建前日に外装板(外壁耐力下地材)を張る場合もあります。
・建て方作業の一日の流れ
柱建て~2階床の桁・梁の組み建て~ボルト締め・立ち起こし~2階床張り~上階は同じ作業を繰り返し~屋根組(束・母屋・棟木)~屋根仕舞い(垂木・野地板)~外装板張り
一般的なサイズの住宅であれば、この作業を一日で行います。
組み立て用道具について
・流れや危険性について
流れについて
建前の前日までに土台敷きを行い、1階の床合板が張れた状態で材料(プレカット材)を搬入します。
建前日には、朝から柱を立てて桁や梁を各所に配り、組み立て役と段取り役に分かれ、クレーンと連携して組み立てを行います。
危険性について
組み立てでは、作業員・道具・材料の落下の危険性や、重機に絡む事故、重い材料に挟まれる事故や、雨などでの滑りなど様々な危険があります。
大工同士の連係ミスでも事故が起きますので、全員で安全に作業できるように心がけましょう。
・カケヤについて
カケヤは桁や梁を叩き込むための大きな木槌です。
浅香工業 カケヤ 本体: 奥行90cm 本体: 高さ12cm 本体: 幅24cm
一般的な木製カケヤです。
カケヤの使い方
カケヤは高所で使用するので、高所作業での慣れが必要です。
カケヤは、両手で握り(利き手が前)、柄を長く持って振ります。
持ち上げる際には、利き手をヘッド側にスライドさせてヘッドを体に一度引き寄せてから振り上げ、振り上げと同時に利き手をスライドして、長く持ち替えるようにすると楽に振り上げることができます。
桁は両端から同時に叩く(平行に入れる)必要があるので、タイミングを合わせて叩き、状況に応じて叩く力を調節します。
カケヤの大きさの使い分け
カケヤには様々な大きさがあり、仕口の硬さによって使い分け、重いカケヤは叩く力が強く、軽いカケヤは取り回しやすい特徴があります。
プレカットの仕口は緩めに設定されているため、基本的には軽いカケヤで大丈夫ですが、雨に濡れると気が膨張して硬くなるので、大きいカケヤが必要になります。
軽いカケヤで強く叩くと手への振動が強くなります。
・カケヤの種類
木製カケヤ
一般的な木製のカケヤで、様々なサイズがあります。
角で叩くと叩いた形で凹むので、平面部分で叩くようにします。
ショックレスカケヤ
王将 プロショックレス掛矢 890mm 6P
ゴムヘッドの中に粒上の重りが入っているタイプで、材料に傷が付きにくいカケヤです。
手への振動が少ないですが値段は高めです。
木槌と使用感が違うので慣れが必要です。
手作りカケヤについて
カケヤは手作りすることもあります。
木槌は非常に割れやすいので、手作りする場合には割れにくい木の又の部分で作る事をおススメします。
・引っかけて打つカケヤ(建前かけや)
ワン・ツゥ・スリー 建前かけや 2.0m
叩く部分に引っ掛けて引っ張るように叩きこむタイプのカケヤ。
丸太に棒を取り付けた手作りのもの(どんどんなどと呼ばれる)が昔から使用されていて、手元にオモリを配置した金属製の商品(建前かけや)もあります。
「建前かけや」は手元でオモリをスライドして、下部にあるストッパーに当てて、振動を上部(引っかけた部分)に伝えます。
オモリとストッパーを打ち当てる時に手を挟む事故が多いので、気を付けて使用しましょう
・脚立について
脚立も建て方には欠かせません。
足元の確認はもちろん、雨上がりなどは足元が非常に滑るので注意しましょう。
脚立からの落下は足が引っ掛かるため、頭などを打つ確率が高く、死亡事故の可能性もあります。
ボルト締め用道具について
・ボルト締めの流れやポイント
ボルトを締める状況では、立ち起こしや、次の作業の段取りなど、それぞれの役に分かれて作業を行いますので、ボルトを締める役は、少人数で全てのボルトを締めていきます。
ボルト締めは単純作業なので、効率を向上させて素早く行います。
片引きボルトなど組み立て時に締めるポルトもありますが、残りのボルトは桁や梁が組みあがった時点でまとめて締めます。
・ボルトを扱う上での注意点
桁上での移動は危険なので少ないに越したことがありません。
一つ一つの作業に忘れがあると、部材や道具を取りに行く移動が発生しますので、作業を完了する前に忘れのチェックの癖をつけることで、次の作業がスムーズに進みます。
仮止めの注意点
ボルトを仮締めして、後でまとめてインパクトドライバーで締め込む場合には、ナットを入れ過ぎないようにします。
入れすぎると、締まっていると勘違いしやすく締め忘れの原因になります。
最終チェック
忘れや締めこみのチェックは、造作時(後日)に棟梁が責任を持って行います。
通し柱のボルトは先に締める
ボルト締めと平行して屋起こしを行うので、通し柱のボルトは先に締めます。
通し柱が緩んでいると、垂直を確認できません。
・ボルト締め修得のコツ
締め方
桁の仕口部分には複数の締め込み部分がありますので、締めるために一度しゃがんだら、全て締めて移動します。
羽子板ボルトは、かんざしボルトを先に締めこんでから締めこみます。
体の柔らかさ
建て方作業は全般的に体が硬いと、動きが遅くなります。
特に前屈の体制になることが多いので、体が硬い方はストレッチしてください。
・インパクトドライバー
マキタ 18Vインパクトドライバ(青)バッテリ等別売 TD171DZ
建前でボルトを締める時に使用するインパクトドライバーは打撃タイプを使用します。
※ソフトインパクト(静音タイプ)はボルトなど強い締め込みを行うと壊れます。
建前のボルト締めでは、親指でスイッチを操作する方向で使用します。
・ソケットビット(19㎜)
羽子板ボルトを締める時には、逆側のボルトとインパクトドライバーが干渉することが多いので干渉を考慮したソケットを選ぶ必要があります。
ベッセル 超ロングソケット 12角 対辺19×160mm
ボルトを締めるためのインパクトドライバー用のビットです。
15cm程の長さのシンプルなタイプで、6角系穴のタイプより星形穴(12角)のタイプの方がボルトに噛みやすいのでおススメです。
安いソケットビットは折れやすく、使用中に折れるとなかなか外れないので、それなりの値段のものが無難です。
※途中で可動するタイプもありますが、ボルトに差し込みにくいので遅くなります。
・ラチェットレンチ(19mm)
ギアーテック ラチェットレンチ 19mm
片方だけ締めることができる手回しのレンチで、インパクトドライバーで締めることができないオフセットしたボルトを締めるために使用します。
先が突き出たタイプと薄型タイプがありますが、状況によってどちらも必要になります。
・建前レンチについて
アネックス オフセットアダプター 対辺19mm
ラチェットレンチで締めるようなオフセットしているボルトを、インパクトドライバーで締めることができる道具です。
手元の六角部分(オス)と先の六角(穴部分)が連動しています。
屋起こし(柱を垂直に起こす)用道具について
・屋起こし(立ち起こし)とは
組み上げた骨組みの垂直を仮筋交い(組み建てのための筋交い)を使用して垂直を直す作業です。
土台部分から桁部分を突き上げて直す方法と、引っ張って直す方法があり、突っ張る場合は桁を突き上げるので、抜けないように注意が必要です。
・流れやポイント
屋起こしは2人以上で行うことが一般的で、さげふりで垂直を確認し、垂直を直して仮筋交いを手打ち釘などで固定します。
屋起こし作業が終わらないと、次の作業を行うことができません。
確認忘れなどで垂直が狂っていると後々大変なので、造作を担当する棟梁が行うのが望ましい作業です。
・風防さげふりについて
屋起こしのための柱の垂直確認を簡単にできる、さげふりの代わりになる道具です。
長さが調整できるので土台上から桁下まで伸ばし、できるだけ垂直に当ててオモリ部分を浮いた状態に調整して使用します。
柱に結ぶためのゴム状の紐が付いているので、結んで手が離すことができます。
さげふりと違い、道具の内部で狂いが生じる場合があるので、その日最初に垂直を確認した柱は、逆面も確認して、狂いが出ていないか確認するようにしましょう。
風防さげふりの選び方
風防さげふりには、2段調整タイプと3段調整タイプとあります。
三共 風防下振 三段式
3段タイプは短くした時にコンパクトになりますが、柱に当たる突起部分が短いので、仮筋交いを止めた面で使用できません。
3段タイプは値段も高いので、持ち運びが可能であれば2段タイプをおススメします。
・屋起こし(突っ張りタイプ)
床合板仕様専用タイプ
最近では根太(床下地材)と火打ち(水平面材)を兼用した構造用合板24㎜(もしくは28㎜)を桁上(土台上)に張る仕様が多くなり、床合板の上から使用しやすい下部パーツが作られました。
従来の形状(Y型)
従来からあるタイプです。
下部を引っかかる部分に当て、長さを調整して桁部分を突っ張り、垂直を直します。
屋起こしの選びのポイント
根太レスNO.1 収納時全長:2250mm
屋起こしを行う突っ張りタイプの商品です。
長さを調整することができ、骨組みの上部と下部を斜めに突っ張り、全体を回転させることで垂直を直します。
下部を引っ掛けるパーツが2種類あり、用途に合わせて購入します。
屋起こしは使いにくい部分がありましたが、最近改良されました。
従来の屋起こしはたたんだ時(一番短くしたとき)に固定できなかったので車での運搬時、急ブレーキで伸びてフロントガラスを割る事故もありました。
最近のものは短くしても固定できるので、購入するときには確認してください。
・屋起こし(引っ張るタイプ)
突っ張り起こしでは桁を上側に押し上げるため、桁と土台に鎖をかけてレンチで引っ張るタイプの屋起こしもあります。
突っ張りタイプより重く、使用するのが難しい道具です。
屋起こし道具の使い方とコツ
上記の屋起こし(突っ張り型・床合板用)と風防さげふりを使用すると、一人で垂直を直す作業ができます。
1・仮筋交いの上部を固定
最初に仮筋交いの上部を桁に固定します。
手打ち釘で固定する場合には、仮筋交いの先(上部)に釘を仮止めした状態で、仮筋交いを部屋内にとる場合には、仮筋交いの下部が柱の根元に固定できる位置に調整します。
左手で仮筋交いを持ち、右手で仮打ちした釘を締めます。
2・風防さげふりでの確認
骨組みがどちらにどれだけ倒れているのか(どちらに起こすのか)を風防さげふりで確認します。
プレカットの通し柱は狂いが起きやすいので、管柱で確認することをおススメします。
風防さげふりを柱に当てたまま屋起こしを行うので、ゴム紐で柱に結びます。
3・屋起こし(突っ張り)
屋起こし(床合板パーツを使用する場合)の最も安全で使いやすい45°になるように長さを調整します。
屋起こしを桁に当てた状態で、合板固定用の爪を足で踏んで固定し、屋起こしを回転させて(右手を人差し指側に)利かせます。
屋起こしが倒れる可能性がありますので、注意してください。
風防サゲフリを確認しながら屋起こしを突っ張り(回転させて)垂直を直します。
4・仮筋交いの固定
垂直が起きたことが確認出来たら、仮筋交いの下部を固定します。
5・最終確認について
固定できた上で、他の柱も狂いがないかを確認してください。
最後に
今回は建て方で使用する道具や使い方などを紹介してきました。
危険な作業なので、周りの住民の方はもちろん、自分もチームも全員の安全第一で行うことが最も重要です。
建て方は大工の社交の場という側面もあり、集まる大工さんは自分が棟梁になったときに来てもらうことにもなります。
建て方は重労働で危険な作業ですが、楽しい作業でもあります。
道具それぞれの特徴を理解して、道具本来の性能を発揮させることが出来れば、建て方でも活躍できること間違いなしなので、参考にしてみてください。