鑿(のみ)使い方上級編【プロ大工用】特徴を活かした最速の方法

本格的な鑿の使い方について

プロの大工が鑿(のみ)の使い方をまとめました。
早く正確にホゾ穴などの仕口や継ぎ手の刻み加工を行うためにはコツが必要です。

鑿の使い方を鑿打ち、荒彫り、仕上げ彫りに分けてポイントを詳しく解説します。

目次

鑿(鑿)画像

作成者プロフィール

説明用動画

はじめに
・鑿の使い方を修得するための3つの覚える事
・加工(刻み)の注意点

鑿で出来る加工について
1・直行側は少し(2㎜程)なら正確に切れる
2・繊維を断ち切る場合には先に割る
3・鑿の端は側面の繊維を切ることができる

刻みを行う上での墨付けについて
・正確な墨
・利かせ具合について
・毛引きでの墨付け
・見通す用の墨

鑿打ち作業について
・効き具合の調整
・鑿打ちの方法
・木による癖について
・その他

荒彫り作業について
・荒彫りのポイント
・荒彫りの手順
・使用する鑿のサイズ
・ゴミ(木っ端)の扱い
・ドリルでの荒彫りについて

仕上げ彫り作業について
・仕上げ彫りのポイント
・仕上げ彫りでの鑿の使い方
・仕上げ彫りの手順
・仕上げ彫りの注意点

最後に

大工道具(手道具)についてのまとめページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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はじめに

鑿の使い方の修得するためのポイントを整理しました。

・鑿の使い方を修得するための3つの覚える事

1・体で覚える事

玄翁と鑿を体の一部のように扱う事
鉛筆のように鑿を扱い、目を閉じて手を叩くように金槌を扱います。

2・経験で覚える事

材料による癖(節など)を理解すること
木には樹種によって性質が違います。
節などは削り落とすように落としますが、経験で覚えます。

3・頭で覚える事

木の性質と鑿の特性を理解して、効率の良い順番やポイントを理解すること

・加工(刻み)の注意点

刻みは精度良く加工できれば早い方が良く、精度が悪いと早い意味がありません。

精度にこだわりすぎも、需要の問題があります。
お客さんの要望に応じて綺麗さと速さ、どちらも使い分けられるようになるのが理想です。

鑿の基本の使い方についてまとめたページはこちら

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鑿で出来る加工について

鑿は木材に素早く平面を作る事ができます。

鑿の使い方を修得するために、木と鑿の特徴を3つのポイントに分けてまとめました。

1・直行側は少し(2㎜程)なら正確に切れる

鑿は少しの厚みなら正確に切り落とすことができます。

鑿は木材の木口近く(2㎜程)を正確に切り落とすことができます。
刃先だけでなく、刃裏を常に平面に研ぎ上げることができる日本刃物ならではの特徴です。

2・繊維を断ち切る場合には先に割る

鑿で直行して切り込む場合には先に繊維を割ります。

鑿を使いこなす方は、当たり前に行っていることです。
繊維側に割れやすい木の性質を上手く利用して、刃の厚みによる抵抗を逃がすように加工を行います。

3・鑿の端は側面の繊維を切ることができる

鑿の角は材側面を切ることができます。

木は繊維側に強い特性があり、刻む際にいかに繊維を断ち切るかが重要になります。
鑿は刻みを行う上で必要な側面の繊維を切ることができます。

技能士試験の練習方法についてまとたページはこちら

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刻みを行う上での墨付けについて

鑿で加工するためには正確な墨が必要

墨付けの精度が悪いと正確に刻んでも意味がありません。

・正確な墨

加工を正確に行うためには正確な墨が必要です。
墨は太すぎてもダメ、見えなくてもダメです。

・利かせ具合について

加工の基本は墨の芯で刻みますが、化粧作業などでは穴のサイズを調整して利かせる場合があります。
その場合、墨の段階で利かす方法と次の鑿打ちの段階で効かせる方法と2つの方法があります。

墨の段階で効かせると寸法間違いの原因にもなりやすいため、墨段階では基本の寸法で墨をつけることをおススメします。

・毛引きでの墨付け

幅は毛引きを使用することもあります。

・見通す用の墨

穴の角度が分かるように見通し墨を巻いておくと刻みやすくなります。
切り墨と間違えて、加工しないように注意が必要です。

墨付け用定規の使い方についてまとめたページはこちら

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鑿打ち作業について

割れ止めと仕上げのために最初に行う鑿打ち

穴掘りを行う前に割れ止めと後から刃が入れやすくなるように切り込みを入れる作業を鑿打ちと言います。

・効き具合の調整

化粧木組みの場合には、鑿打ちの際にオス材の幅と効き具合を確認して鑿打ちするラインを決めます。
樹種によって、丁度いい利かせ具合は異なります。

柔らかい木

杉などの柔らかい樹種は、木殺しを行うと2mm効かせても入れることができます。
あまり効かせると、出抜けの仕上がりが歪むことがありますので、1㎜ぐらいが綺麗です。

堅木の場合

欅などの堅木はあまり木が潰れませんので、0.5mm利かせるくらいが限界です。
堅木の化粧加工は柔らかい樹種と比べ、高い加工精度が必要です。

軸組の利かせ具合

木造住宅などの軸組の仕口を効かせると建前(組み立て)が大変になりますので、化粧材以外はあまり利かせません。

工場で刻み加工を行うプレカットは0.5㎜程緩く加工されています。
逆に1㎜緩いと緩すぎますので、緩いと言っても正確に狙って効き具合を調整します。

※効き具合は、雨などの水分を含むと材が膨張してきつくなります。

プレカット材の扱いについてまとめたページはこちら

・鑿打ちの方法

精度について

鑿打ちの精度は仕上りに直結しますので、正確に打ちます。

※多少突き出す分には、仕上りに影響することはありません。

打ち方

金槌も鑿も長く持ちます。

直行方向はトンッと一発で打ち込みます。
平行方向はトントントンと優しく打ち込みます。

打ち込む角度について

鑿打ちは仕上げ角度に関係なく、刃先の角度が材面に直角になる角度で打ち込みます。
仕上げ彫りのように刃の裏面を直角にして打ち込むと、刃先の方向に逃げる(食い込む)場合があります。

深さについて

深さは1㎜程を目安にしてください。

深く打ち込みすぎると、刃で仕上り口を潰してしまい仕上りが悪くなります。
鑿打ちは、加工中の割れ止め目的でもあるので、浅すぎると意味がありません。

刃の移動方法

鑿は不器用な左手(聞き手じゃない方の手)で操作しますので、素早く正確に移動させるにはコツがいります。

・直行移動

刃を直行方向に移動させるには、鑿先を歩かせるように鑿の角を片方ずつ動かして調整します。

・平行移動

一度打ち込んだ鑿を平行に移動させる際には、進行方向の刃先を少し上げて後ろの角を打ち込んだ切り目に沿わせるようにスライドして調整します。

・木による癖について

杉の鑿打ち

杉材は稀に乾燥しすぎて、鑿打ちを行うと仕上げ口が凹むように割れてしまう状態になっている場合があります。

どうしようもない場合もありますが、霧吹きなどで少し湿らせると加工できる場合があります。
濡れ雑巾に刃先を付けて湿らせながら切る方法もあります。

節がある場合

節は他の部分と比べて硬さも繊維の方法も違いますので、無理をせずに丁寧に刃を入れます。

鉋(かんな)の修得方法についてまとめたページはこちら

・その他

毛引きで墨をつける場合には鑿打ちは不要になります。

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荒彫り作業について

 

鑿を使用した荒彫りについて

ホゾ穴を彫るときには、一度荒彫りを行います。
仕上げより少し小さなサイズの穴を、必要な深さまで彫り、底面はこの段階で仕上げます。

・荒彫りのポイント

木に鑿を打ち込むと、刃の厚みに抵抗がかかりますので、先に繊維側を割って抵抗が掛からないようにします。
実は刻みが早い大工さんはみんなこの方法で刻んでいますので、確認してください。

・荒彫りの手順

鑿打ちしたラインから3㎜程内側を掘る段階です。

1・荒彫りサイズに鑿入れ(打ち込む)

荒彫りサイズに抵抗がかかるところ(柔らかい木で3㎜程)まで鑿を打ち込みます。

残し過ぎると、仕上げにくく、少なすぎると加工中に入り口部分に傷つきやすくなります。
節がある場合は節部分だけ先に丁寧に割ります。

2・深く掘り進める

直行側に打ち込んだ部分に向かって、繊維方向に鑿ですくうように繊維を彫り上げます。
彫り上げる際には、打ち込み抵抗を少なくするために、繊維方向をバラバラ(薄い板状)にするイメージです。

バラバラにした繊維を一枚一枚断ち切るように打ち込むと、打ち込むたびに自然と砕いた繊維が剥がれるので、抵抗が無い状態で切り進むことができます。
無理にたたき込むと仕上りが汚くなりますので、打つ力も調整します。

3・底面を仕上げる

ホゾ穴の底面は彫りにくく、仕上げ彫りの後に行うと仕上げ部分に傷が付きますので、荒彫りの際に仕上げます。
底面を彫るには、鑿の表側の面を使って底を作り、手で突いて仕上げます。

深い穴の底を彫る場合には、底面の繊維を切って割り取ります。

※日本の仕口は鋸や鑿で作る事を想定しているため、鑿で加工できない部分は精度や強度に関係しないように設定されています。

角ノミや大入れルーターの使い方についてまとめたページはこちら

・使用する鑿のサイズ

鑿幅は、様々な大きさの刻みを行うために、3㎜(1分)刻みで設定されています。
荒堀の場合には、荒堀サイズより少し(3㎜程)小さい幅を使用します。

側面に引っかかる鑿幅では無駄に抵抗がかかり、細すぎると彫る回数が増えます。

・ゴミ(木っ端)の扱い

穴のゴミは基本的に鑿で取るようにします。
深い穴や大きな仕口では、鑿でしか届かない場合もあるので普段から鑿で払う練習をしておきましょう。

・ドリルでの荒彫りについて

実務の荒彫りでよく使用するドリル

実務でホゾ穴を彫る場合には、カクノミかドリルを使用します。
ドリルでの荒彫りも鑿での荒彫りと考え方は一緒です。

ドリル径について

ドリル径はホゾ穴の仕上げサイズより少し小さい(3㎜程)サイズ彫ります。
ホゾ穴のサイズが大きい(30㎜など)場合には錐径も大きくなるので2列で彫れるように15㎜などのドリル径で彫る場合もあります。

彫る順番

ドリルを使用する場合には、両角から彫ります。
ドリルは、隣に先に開けたドリル穴があると、まっすぐ掘れなくなりますので、角の穴を優先して正確に彫ります。

ドリルでの荒彫りのポイント

ドリルでの荒彫りでも、次の仕上げ彫りは同じように行いますので、仕上げ彫りが行いやすいように形を整える必要があります。
ドリル(ギムネ)での荒彫りの場合は、穴と穴の間が繋がっていない状態になることがあります。

穴と穴の間に残った木の部分は仕上げ彫りで穴の側面を仕上げるのに邪魔になりますので、穴と穴を底まで繋ぐように鑿で飛ばしておきます。

角度がある場合

技能大会で作る四方転びなどの刻み加工では、ホゾ穴は全て斜めになります。
角度のあるホゾ穴をドリルで荒彫りする場合には、ドリルも穴の方向に彫ります。

節などがある場合

節は部分的に繊維方向が違い、根本的に鑿で彫りにくい繊維方向になります。
ホゾ穴を彫る部分に節がある場合には、ドリルを使用して出来るだけ繊維を断ち切るようにします。

ドリルの使い方についてまとめたページはこちら

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仕上げ彫り作業について

仕上げ彫りは鑿の裏面を定規にして切り込みます。

仕上げ深さまで彫れた穴を、鑿打ちした仕上げサイズの穴に仕上げる作業です。

・仕上げ彫りのポイント

1・切れるように切る

荒堀と同様に、刃先に抵抗が掛からないように彫ります。

2・無駄なことをしない

ホゾ穴掘りで最も時間が掛かるのは、手で突いて仕上げることです。
出来るだけついて仕上げる時間を減らすために、一つ一つの作業を正確に行います。

・仕上げ彫りでの鑿の使い方

 

ホゾ穴の仕上げは丁寧にするほど早くなります。鑿は必要な形に日頃から手入れしておく必要があります。

鑿の裏面を使用する

鑿の裏面は定規として使用します。
平面に研ぎ上げた裏面を仕上げ面に合わせて打ち込むことで、一発で仕上げ面を正確に作る事ができます。

鑿の角を使用する(重要)

鑿の刃先の角は打ち込むことができない側面の繊維を切ることができます。

角度の調整の方法について

打ち込み角度を調整する場合には、鑿先を打ち込んだ状態で柄の先を前後に動かして調整します。
鑿は5㎜程打ち込んだら、角度を変更することができません。

※鑿の裏面が完全な平面に調整出来ていないと、打ち込むたびにズレます。

・仕上げ彫りの手順

1・側面を仕上げる

仕上げ彫りはまず側面を仕上げます。
側面を仕上げるためには、繋がっている繊維を両側で断ち切る必要があります。

鑿の角を使用して荒彫りの木口部分(仕上げから3㎜程内側)の角で側面繊維を側面仕上げ面まで断ち切ります。
側面を落とす際には、鑿の刃裏面を仕上げ側面に合わせて落とします。

側面は繊維方向なので、鑿打ちした切込みに刃を入れて優しく叩くだけで綺麗に落とすことができます。

2・穴の木口面を仕上げる

側面を仕上げた後は、木口面を仕上げます。

側面が仕上がっていることで木口面を仕上げる際に抵抗なく打ち込むことができます。
基本的に側面の仕上げと同じ方法で行いますが、木口面の場合は側面に見通し墨を入れることができ、正確に狙うことができます。

3・仕上げ(叩き)

この時点で、定規などでホゾ穴の側面や木口面の角度の確認を行います。
小さい材料の突き抜けホゾであれば、鑿の側面を定規に使用することもできます。

突いて仕上げると時間が掛かるので、細かい部分もなるべく叩いて仕上げます。

4・仕上げ(突き)

最後に突き鑿などで、綺麗に仕上げます。

・仕上げ彫りの注意点

仕上げ突きを減らすためや、穴の入り口部分を利かすために、穴の中程をえぐる方がいますが、絶対にダメです。

強度が落ちる他、突き抜けホゾの場合、組み立て時に割れの原因にもなります。
また、見た目も悪く、組む前に仕口を見られたときには信用を失う可能性もあります。

まっすぐに彫れるようになれば、早さも変わりません。

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最後に

いかがでしたか?

後は刻みを行う中で、体で覚えることや、経験で覚えること身に着けていけば自然と早くなっていきます。
鑿の手入れも非常に重要ですので、取り組んでみてください。

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