トリマーの使い方【プロの大工が解説】実用的な木材加工技まとめ
トリマーはDIYなどでも利用されている木工機械ですが、トリマーを使いこんでいるプロの大工さん(住宅専門の大工)はあまりいません。
実はプロが行う加工でも効果的な道具で、宮大工さんや建具屋さんもトリマーやルーターを多用しますし、床柱を10分程で加工している建売大工さんもいたそうです。
トリマーの使用は精度や加工時間に大きな差が出る場合があり、使わないともったいない道具です。
いろいろな使い方がある道具なので、おススメのビットの紹介と共に大工工事に使えそうな技をまとめてみました。
目次
ビットや構造の紹介
・構造や付属の機能について
・フラッシュビットについて
・フラッシュビットによる切り落とし
使い方例1・アールの切り落とし加工
使い方例2・大入れ加工の仕上げ彫り
使い方例3・建築面材の後開口
・定規での複製
使い方例4・定規で複製加工
使い方例5・床柱の加工
使い方例6・階段加工
・その他の加工
使い方例7・Ⅴレール加工
使い方例8・円形カット
・トリマーは加工量が少ない
・刃が切れないと加工できない
・交換刃が高価
基本的な使い方について
・台を当てて切り込む
・時計回りに使用する
トリマーやルーターの選び方
・トリマーの選び方
・力不足を感じたらルーターを検討
機械道具(パワーツール)についてのまとめページはこちら
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
ビットや構造の紹介
・構造や付属の機能について
マキタ 電子トリマ 6mm
作成者が使用しているトリマです。
トリマーの構造について
トリマーの構造はシンプルで、片手で持てる大きさの本体に時計回りに回転する軸があり、交換式の刃を取り付けて使用します。
台(定規部分)について
加工部分には、加工深さを調整できる台があり、様々な使い方が出来るように台には取り付け穴が複数空いていて、付属の定規などの固定もできるようになっています。
※今回は、平行定規については取り上げません
テンプレートガイド
台の中心(刃が出る部分)にはテンプレートガイドという定規が取り付けられるようになっています。
子の定規はシンプルなビットでテンプレート(定規)通りに加工するための定規です。
・フラッシュビットについて
フラッシュビットとは
大日商 木工ビット 超硬ストレート6×6(1P)
シンプルな6㎜ストレートビット
フラッシュビットはトリマーやルーターの刃の中で、ストレートのタイプのことを言います。
太さや長さは様々なものがあり加工状況に合わせて交換します。
削れない部分が付いたタイプ
大日商 木工ビット 1段フラッシュビット 6×6
面材の後開口に使用するビット
フラッシュビットには刃(削れる部分)以外に削れない部分があるものがあります。
円柱型の削れない部分や、削らない部分に負荷をかけないようにするためのボールベアリングが付いたタイプもあります。
削れない部分は、刃先部分・根元部分・中心部分など、使用状況に合わせて様々なタイプがあります。
※面取りビットやアリを作るビットなどもあるのですが、今回はフラッシュビット以外については取り上げません。
実用的なトリマーでの技について
ルーターやトリマーは、大工以外にも様々な職業の方が面白い方法を行っています。
大工工事でも使える技がありますのでご紹介します。
・フラッシュビットによる切り落とし
使い方例1・アールの切り落とし加工
この技は宮大工さんに教えてもらいました。
宮大工さんが実はかなり機械を使用しているということに、当時衝撃を受けました。
厚みのある材料のアール加工
90㎜程の材をアール状に加工する作業です。
ルーターと長いフラッシュビット(中心に削れない部分があるタイプ)で加工します。
フラッシュビットの使い方
大日商 木工ビット 超硬2段(両面)フラッシュビット ルーター用(12Φ)
宮大工さんが使用していたルーター用(12㎜軸)のフラッシュビット
まず材側面(墨のついた面)の表面を鑿で墨通りに5㎜程の深さで加工し、ルーターで深堀りを行います。
ビットの削れない部分が5㎜加工した部分になるように高さを調整して下部分を切り落とします。
材料が大きいので、仕上げ加工(定規に当て手加工する)に狂いが出ないように先に荒堀を行います。
切り落とす
加工出来ると刃を出して深さを調整(加工出来た面が定規に出来る)して同じ作業を繰り返します。
※宮大工さんは表面加工(5㎜加工)の際にアールに合わせて丸鑿(丸い形状の鑿)で丁寧に加工していました。
使い方例2・大入れ加工の仕上げ彫り
切り落とし加工は造作工事での大入れ加工でも使えます。
簡単に大入れ加工での底部を、深さを合わせて完全な平面に削ることができます。
加工方法
この加工では短い刃(12㎜程)で根元にボールベアリングがついたフラッシュビットを使用します。
大日商 ガイドべアリング付ストレートビット 6×10S10
※作成者お気に入りのビット
20個くらいの穴であれば1時間ほどあれば加工できます。
深さが決まっていることでオス材の長さも正確に設定することができます。
アール加工と同様に鑿を使用して、表面を墨通りに5㎜程加工します。
加工した5㎜の加工にボールベアリングが来るように設定して切り落とします。
大入れ加工の注意点
根元が削れないタイプでの大入れ加工の仕上げ彫りでは、ビットの長さによって加工可能な深さが決まってしまいますので、加工深さが変わるたびに加工に合ったビットを購入する必要があります。
使い方例3・建築面材の後開口
石膏ボードや外部合板などの開口を、張った後から墨を出さずに面材裏の下地に沿ってカットする方法があります。
加工方法
この加工で使用するのは刃の先端に削れない部分があるフラッシュビットを使用します。
ビットの切れない部分が面材より深くなるように設定します。
面材を固定後、開口部分に刃を突き刺して削れない部分を下地内側に当てながら時計回りに加工します。
後開口の注意点
外部合板(体力面材)はフラッシュビットが痛みやすいタイプ(パーティクルボード製)もあります。
また、墨さえ出ていれば丸ノコでカットする方が早いので、特徴を理解して上での使い分けが必要です。
石膏ボード専用のトリマー
マキタ 防じんボードトリマー 3/6mm
面材の後開口以外には使いにくい形状です。
他に使用する機会のない専用道具なので、機械代の元が取れるかどうかは使い方次第です。
石膏ボードの後開口には専用の集塵トリマーがあります。
石膏ボードに関しては墨を出さないメリットの他、張る順番を決める際に開口部分で逃げが効くことになりますので、画期的に楽になることもあります。
・定規での複製
この使い方は、DIYや海外で使用されるようなトリマーの本来の使い方です。
大工は平面を作り出す職業なので滅多に行わない加工ではありますが、この方法でのトリマーでの加工効率は非常に高いので、是非使い方を知っておいてください。
使い方例4・定規で複製加工
トリマーは複雑な平面加工(形や溝など)を正確に作れる特性があり、定規を使用することで複雑な形でも複製することができます。
この特徴は、リフォームや設計付きの大工工事などでのイレギュラーな造作では、便利になります。
加工方法
定規を使用する方法は、前記したフラッシュビットの他テンプレートガイドなども使用できます。
切り落としと同様に墨を出さずに加工することができます。
複製加工の注意点
定規(テンプレート)を手作りする場合には、定規のつぶれによる精度の狂いを考慮してください。
柔木製の定規は何度も使用しているうちに、少しずつ振動や圧力で潰れて広がっていきます。
使い方例5・床柱の加工
一昔前の建売住宅には、ほとんどの家に床の間のある和室がありました。
その時代にトリマーを使用して床柱を10分程で刻む大工さんがいたと聞きました。
トリマーの特徴を活かすと、床柱の加工は可能です。
日本独自の作業での画期的な加工例だと思うので、僕が実際に行ったことはありませんがご紹介します。
※建売住宅では、天井高や収まりがいつも同じだったらしく、その大工さんは床柱加工用のトリマー定規を作っていたようです。
床柱加工用の定規とは
床柱用のトリマー定規は丸柱がすっぽり入るような箱状の定規を作り、収まり(芯)に合わせて定規と丸柱を固定します。
床柱は丸柱ですが、芯や高さの原理は角柱と同じなので、丸柱に固定する箱定規も原理は全く変わりません。
箱定規に対して角柱が収まるように加工(定規を作り)します。
加工方法
定規の固定は、丸柱側面は固定できませんので(化粧材なので)柱の上部と下部(後ろの壁部なども)固定します。
他の加工より底が深くなるので、何度か深さを調整する必要があります。
※実際には定規を作る時間が必要なので、建売などの環境でない限り10分では加工できません。
床柱のプレカット
床柱や丸梁の加工もプレカットが可能です。
トリマの使い方は丸材のプレカットと非常に近い関係にあります。
使い方例6・階段加工
階段の加工は現代ではほぼプレカットなので、加工する機会はかなり少なくなりました。
プレカットが普及する以前、ルーターで階段を加工するための「階段定規」という商品がありました。
階段定規はテンプレートガイドを使用する加工方法なので、例としてご紹介します。
※「階段定規」は、直階段用と周り階段用がありましたが、現在は無くなったようです。
加工方法
この定規ではルーターとテンプレートガイドとストレートビット(シンプルなフラッシュビット)を使用します。
テンプレートガイドは刃サイズより大きいので、定規は加工ラインからオフセットしている状態です。
※階段加工も手作り定規で可能です。
・その他の加工
上記以外の加工についてまとめました。
使い方例7・Ⅴレール加工
建具屋さんに教えてもらった既存フロアーにⅤレール溝の加工を行う方法を紹介します。
トリマーでVレールを加工する特徴
引き違いなどのⅤレールは直線的に収める必要があります。
リフォームや無垢材の表面は平面が出ていないこともありますが、トリマーは加工高さも定規で揃えることができます。
また、トリマーの回転は縦軸なので加工時にフロアー表面を傷めることがなく、比較的扱いやすいので失敗のリスクも少ないことが特徴です。
トリマーでVレールを加工する注意点
トリマーの構造上柱の入り墨までは加工できません。
戸車は少し内側についているので、Vレールは角までなくてもいいのですが大工としては柱まで彫りたいところです。
使い方例8・円形カット
出隅のアールは丸ノコでも正確にカットできますが、入隅のアールはトリマーで行います。
出隅のアール加工の方法についてはこちらのページで解説しています。
コンパスカットの方法
トリマーの台(定規部分)のビス穴を利用して桟木を固定します。
加工の芯(円の中心)で桟木をビスで固定してコンパス状に回転させて加工します。
材に厚みがある場合には、円の芯を材裏に写して裏からも行います。
トリマーの弱点について
・トリマーは加工量が少ない
トリマーの最大の弱点は加工力が小さいことです。
一度に加工できる深さ(幅)も少なく、刃が小さいので加工量が多くなると時間が掛かります。
加工量の多い加工はルーターを使用するか、溝切りなどで荒堀を行います。
・刃が切れないと加工できない
トリマーはドリルなどと違い、材の全ての繊維を刃で断ち切って加工する構造です。
刃が切れなくなると加工速度が遅くなり、最悪は刃が折れて飛んでいきます。
・交換刃が高価
トリマーの刃は芯やベアリングが一体になっており、他の機械の刃と比べて高価です。
安い刃もあるようですが刃の切れ味は加工速度や仕上り、機械への負担にも関わりますので、切れ味の良い刃を使用することをおすすめします。
基本的な使い方について
・台を当てて切り込む
最初に刃を切り込む際には、台を材料に斜めにした状態で確実に当てから少しずつ切り込みます。
台を当てずに切り込むと機械が暴れます。
・時計回りに使用する
トリマーやルーターの刃軸は時計回りに回転しますので全て時計回りに使用します。
逆(反時計回り)で使用すると刃が材料に引っかかって引っ張られてしまいますので、うまく微調整ができません。
トリマーやルーターの選び方
・トリマーの選び方
トリマーはネットで海外製品の安いものも買えるようですが、刃の径の規格が違うものもあるようなので確認が必要です。
最近コードレスタイプも発売されました。
マキタ 充電式トリマ18V(本体のみ)
最近発売されたコードレスタイプのトリマ
コードレスは割高ですが、トリマーの特徴的には問題なく使用できると思うので値段が合えば便利だと思います。
・力不足を感じたらルーターを検討
マキタ 電子ルータ 12mm
ルーターは機械も刃も値段が高いので、使用頻度とのバランスの検討が必要です。
住宅の大工工事では、トリマーの力不足を感じることは滅多にありません。
トリマーに力不足を感じたらルーターを検討してください。
僕は今のところ持っていません。
最後に
いかがでしたか?
今回ご紹介した作業は墨付けや加工を一般の方法で行うと、かなり時間や手間の掛かる作業です。
日本にはトリマーやルーターを多用する大工さんは少ないので、あまり購入を検討することのない道具だと思います。
しかし、使用率の低い技術ほど修得すれば精度や早さで簡単に差を付けることが可能です。
今回ご紹介した技以外にも、工夫次第で様々な使い方ができる道具なので、ぜひ特徴を掴んで自分だけの使い方を修得してください。