建て方作業の目的と優先度【プロ用】センパイ大工が厳しくなる理由

建前作業の流れ

みなさんは建て方作業で怒られて焦ってしまった経験はありませんか?

建て方作業では集まる大工さんはいつもより厳しくなりますよね?

ではなぜ大工さんは建て方では厳しくなるのか?
それは建て方という作業は目的や優先度を全員で共有しなければいけないからです。

スキルを修得するのには多少時間がかかりますが、ポイントの把握はすぐにでも可能です。

ということで今回は無駄に怒られないためにも建て方作業の抑えるポイントや優先度についてまとめました。
また、大工さんが厳しくなる理由でもある大工と建て方作業の関係についてもご紹介します。

目次

作成者プロフィール

説明用動画

はじめに
・目標や優先度
・ポジションについて

建て方の流れ
工程1・柱を立てる作業
工程2・桁(けた)や梁(はり)の組み立て
工程3・金物(ボルト)固定と立ち直し
工程4・床合板張り作業
工程5・屋根仕舞い作業

建前の役割分担について
1・棟梁(現場を請けている大工さん)
2・登って作業する大工(組み立て役)
3・下で段取りする大工(補助役)
4・その他(別動隊)

優先度の整理
1・安全な作業
2・建物の品質
3・作業効率

大工と建て方作業の関係
・建て方は一人ではできない
・大工さんが集まらない場合の原因
・プロの大工になるために重要な作業

最後に

新築工事作業の流れや目的をまとめたページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

作成者プロフィールページへ

説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

目次へ戻る

はじめに

木造住宅新築工事(プレカット)の流れやポイント

建て方の目標と役割のイメージはスポーツに似ています。
まずはサッカーを例に建て方の優先度のイメージについてご紹介します。

・目標や優先度

サッカーの目的は勝つことですよね。
優先度はスポンサー→監督→キャプテンとなります。
そして、チームには選手以外にもたくさんの人が関わります。

そもそも勝つという目的も、スポンサーのためであり、目的はチーム全体で共有していないとうまく機能しません。

・ポジション

ポジションは、攻めるのが得意な人、守るのが得意な人、ゴールキーパーが得意な人がそれぞれ得意なポジションについた方が効率的です。

サッカーは比較的ポジションが固定されていますが、建て方はいつもと違うメンバーで行うことも少なくありません。

たまたまゴールキーパーが得意な人がいない日もありますので、何でもできるマルチなプレーヤーも重宝されます。

目次へ戻る

建て方の流れ

木造住宅の構造イラスト

木造建築の建て方(躯体組み立て作業)はたくさんの作業があり、複数の大工さんが並行して行います。

まずは作業工程の順序をご紹介します。

工程1・柱を立てる作業

建前の最初の工程は柱を立てる作業です。
前日に施工した土台の上に柱を立てます。

管柱(くだばしら)

柱の中でワンフロアー(階高)の柱が管柱です。
軸組み工法(プレカットも同様)ではすべて番付が付けられ場所や方向が指定されています。

通し柱

通し柱は二つ以上の階をまたぐ長い柱です。
間階の床桁はホゾ仕口になっておりボルトで固定します。

通し柱は長いためどの段階で建てるのかを判断します。
1・邪魔になる(引き出せなくなる)場合は足場に立てかける
2・桁や梁と並行して組む

工程2・桁(けた)や梁(はり)の組み立て

建て方のメイン作業である桁や梁の組み立て作業

組み立て直下部分に運ぶ

重い桁や梁はクレーンを利用します。
クレーンは横移動が苦手(遅い)なので桁梁は取り付け直下に運びます。

※運ぶ場合は柱が立っていない段階の方が理想ですが、状況に応じて順番を決めます。

組み立て作業

柱の上に桁や梁を組んでいきます。

組み立て作業を行う組み立て役はクレーンを使う場合でも最低3人は必要です。
クレーンが使用できないパターンでは人力で組み立てを行います。

材料の段取り

材料の段取りを行う吊り役は組み立て役を待たせてはいけません。
次々と玉掛けを行い、次の作業に使う材料の段取りも必要です。

桁梁と一緒に搬入されるササラ桁などは一度に吊り上げるためにまとめます。

足場や道具の段取り

補助役は組み立て役の補助を行います。

※補助役と聞けば手伝いのようなイメージですが「段取りしたからお願いします」と言って次の段取りをするなど全ての作業を把握していないとできない作業なので棟梁が行う場合もあります。

足場(脚立など)

作業には足場が必要なので脚立を立てるなどの段取りが必要です。

金物や道具(インパクトやカケヤなど)

作業を行う場合には当然に道具や金物が必要です。

工程3・金物(ボルト)固定と立ち直し

組み立て作業が一段落すると次の作業があります。

小ササラの取り付けと釘打ち

桁や梁の間に小ササラと呼ばれる短い材を入れる場合があります。
一般的に組み立て役の方が2人ほど残って行います。

小ササラは釘打ちで固定ですので、釘打ちを担当する場合は、打ち忘れが無いように責任をもって固定します。

ボルトの固定

この段階の作業の中では比較的時間がかかる作業です。

下では立ち直しを行っているので先にホゾ仕口の両引きや片引きボルトを締めます。

立ち直し(柱の垂直を直す)

柱の垂直は水平耐力である床合板を止めると直せないのでこのタイミングで行います。

一人で立ち直しを行う方法についてもご紹介してるページはこちら

次の作業の段取り

この段階の作業に終わりが見えると次の作業の段取り(床合板や上階の桁梁柱)を行います。

工程4・床合板張り作業

下階が固まると床合板を張ります。
ササラの固定や床合板張りについては土台と同様のポイントに注意して行います。

床合板のポイントについてもご紹介してるページはこちら

全員がまとまる作業

床合板の貼り付け作業はワンピースの「シャボンディ諸島」のように、以前の作業で別々の作業を行っていた大工さんが一度全員集まります。

スピードの限界

釘打ちスピードはコンプレッサーのパワー次第なので限界があります。
一人が早打ちするための空気を溜めるのに必要なコンプレサーは一人当たり3台必要です。用意したコンプレッサーがそれ以下なら無理せず丁寧に打ちます。

釘打ち機の使い方についてまとめたページはこちら

その他

立ち直しが終わっていない場合には並べても仮止めで待ちます。
釘は造作時にも打てるので棟梁の判断で次の段階に進む場合もあります。

工程5・屋根仕舞い作業

最上階の桁梁の上に屋根用の構造材(屋根束・母屋・棟・隅木)などを取り付けて、垂木や野地板を貼ります。

以前は加工作業が多い工程でしたが、近年ではプレカットが多いので組み立てや取り付け作業がメインです。

屋根仕舞い作業は高所作業で作業量も多いため、大工や道具や材料などの落下に注意して行います。

隅木屋根の野地板の勾配カット方法についてご紹介しているページはこちら

目次へ戻る

建前の役割分担について

建前では作業の役割分担が必要なので、その場で作戦会議を行います。

それぞれの役割の責任を理解して、作業の決定権や優先度について把握してください。

1・棟梁(現場を請けている大工さん)

最も決定権があり優先されるのがその現場の責任を持つ棟梁です。

責任者

大工さんを集めて建前を行って、全員に手間賃を払うのが棟梁です。

材料の段取り(搬入時間)や後の手直しを行えるのは棟梁だけなので、棟梁の意見は優先されます。

作業内容の決定

材料の固定方法についても棟梁が決定しますので、棟梁が釘一本でいいと言えば一本だけで固定します。

棟梁よりも確実な作業(言われた精度以上)をすればよく、不可能であれば棟梁に「できないので自分でやってください」と正直に伝えます。

2・登って作業する大工(組み立て役)

組み立て役は鳶作業で建て方の花形です。
桁の上は移動だけでも危険ですので、登っている方優先で作業を行います。

力を使う仕事

組み立ては大きな材を扱うので、不安定な足場で運搬や位置調整を行うには足場のいい場所での作業と比べて力が必要です。
また、カケヤで材を叩き込む作業はなかなかの運動です。

逆に言えば段取りは下の方に任せるため、あまり建て方の進行については考えなくてもいい作業でもあります。

慣れ(スキル)

クレーンで吊り上げた材料の反動や組み上げの微妙なコツなどを知るにはある程度慣れが必要です。

また、そもそも高所作業である組み立て作業は高さに慣れる必要があります。

進める役

組み立て作業は上っている方優先で行うため、必然的に支持を出す担当となります。
当然現場は上から見渡したほうが全体を把握できます。

3・下で段取りする大工(補助役)

組み立ては全員が桁の上にいても進みません。
組み立て役の考えていることを予測して準備や段取りを行います。

組み立て役が行う作業の把握

下で段取りを行う方は組み立て役が行う作業を完全に把握している必要があります。
自分が組み立てを行っているときにやってほしいことを行います。

※必然的に修得の順番は上からになるので、危ないからと組み立て作業を行わないといつまでも下の作業ができるようになりません。

完全な準備

建て方に参加する全ての人が待つことが無いように準備を行います。

人数が多いので6人が5分止まればトータル30分のロスです。
お金を払う棟梁のためでもあり、全員で早く帰るためにも全員を待たせないようにします。

4・その他(別動隊)

近年では建て方当日に外装用面材を張る場合があります。
その他建て方ではイレギュラーな事件も頻繁に起きるのでそのような場合には組み立てを行っている最中でも別作業を任される場合もあります。

目次へ戻る

優先度の整理

建前作業の優先度を整理します。

1・安全な作業

建て方作業は安全第一です。
高所作業、重い材料、重機の使用など非常に危険度が高い作業なので、事故が起きると痛いですみません。

全員で安全意識を共有して事故を未然に防ぐようにします。

2・建物の品質

建て方作業は一日でたくさんの作業を行いますので建物の品質に大きく関わります。

棟梁の指示

建物の品質の責任者の指示に従って作業を行います。

役割の責任

建て方で任せられた役割は責任をもって完成させます。
任せられたのは作業ではなく終わらせることですので、釘の打ち忘れなどは絶対に無いようにします。

完了確認は1年目の大工さんでも可能です。
ベテランでも作業が早くても、忘れがある(未完成のまま引き渡す)大工さんには仕事を任せることができません。

大工さんの責任(請負契約)についてまとめたページはこちら

3・作業効率

建て方作業はイレギュラーなことも多く担当していた人だけでは他の作業に間に合わなくなることがあります。

組み立て役を優先

建て方作業は常に上る方優先です。
下の方に「待ってください」と言われたら、組み立て役は作業を進めることができず待つことしかできません。

足場の悪い場所で作業している方が優先です。

臨機応変な役割の変更

建て方作業では作業が止まらないようにします。
コンプレッサーのエアー待ちや継ぎの材料の搬入待ち、通り雨などはしょうがないですが、
他の作業では臨機応変に全体が止まらないように担当を入れ替えて作業を行います。

目次へ戻る

大工と建て方作業の関係

特性を活かして一本一本丁寧に打ちます。

建て方作業は大工工事の中でも他の作業と全く違う注意点があります。

・建て方は一人ではできない

棟梁になる(手間請けを行う)と建て方は棟梁が大工さんに声をかけて集めます。

建て方作業は朝も早く体力も使い、ケガのリスクもある作業なので協力してもらうためには信頼関係が必要です。

・大工さんが集まらない場合の原因

建て方は死亡するかもしれない作業ですので大工さんも簡単には来てくれません。

建て方は「お互い様」なので、呼びたい大工さんの建て方に応援に行ったときに役に立つことができれば来てくれます。

集められない(来てくれない)理由は、建て方に呼ばれる価値がないからです。
棟梁になるには応援先で役に立つことができる建て方スキルが必要になります。

・プロの大工になるために重要な作業

建て方作業は大工さんが最も集まる作業です。

大工はプロの大工に認められてはじめてプロの大工です。
一人前を目指す大工さんにとって建て方で認められることがプロとして非常に重要になります。

目次へ戻る

最後に

いかがでしたでしょうか?
先輩大工さんが怒る理由もわかっていただけたと思います。
ポイントがわかれば怒られにくくもなると思いますし、怒られても焦ることもなくなると思います。

目次へ戻る

新築工事作業の流れや目的をまとめたページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら
ホームへ