大工用計算式10選【実用】ピタゴラスの定理や電卓の使い方
今回はプロの大工が工事に便利な計算式をまとめました。
物を作る場合には計算は必須で組み合わせ次第で施工効率に大きく影響します。
大工が行う計算は以前ご紹介した規矩術だけでなく学校で習った普通の計算も多く使用します。
下屋(庇)の垂木掛け高さの勾配計算や、リフォームに不可欠な定規を使用する引き算、割り付けでの電卓の使い方など現場ですぐに使える計算をご紹介します。
また、ピタゴラスの定理についてや計算の注意点(デメリット)についても解説します。
目次
1・下屋(庇)の垂木掛け高さ
・上部が勾配にカットされている場合
・上部が直角の場合
2・定規を使用した引き算
・フローリングの張り出し
・オフセットのひかりつけ
5・蹴上げの割り付け(電卓の使い方)
・倍数の求め方
・階段の蹴上げ寸法の割り付け
10・天井のむくりの比率
・中3本吊りの場合
・中4本吊りの場合
・中5本吊りの場合
計算の注意点
・計算上の数値以上に大切なこと
・計算にはたくさんのアプローチがある
・計算を使う方法
最後に
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
下屋(庇)の垂木掛け高さ
下屋の垂木掛けの高さの求め方についてご紹介します。
垂木掛けの形状は、上部が勾配にカットされている場合と、上部が直角の場合の2タイプあります。
・上部が勾配にカットされている場合
上部がカットされた垂木掛けの高さは、軒桁の垂木欠きの手前から柱までの距離に勾配(4寸勾配の場合0.4)をかけて求めます。
・上部が直角の場合
上部が直角の垂木掛けの高さは、軒桁の垂木掛けの手前から柱までの距離から垂木掛けの厚みをひいた数値に勾配をかけて求めます。
2・定規を使用した引き算
フローリングの張り出しのカットを行う場合のひかりつけには定規を使用した引き算を用います。
・フローリングの張り出し
フローリングの張り出し墨に合わせ2列目にフローリングを置き、壁からフローリング幅の定規で置いたフローリングに墨をつけます。
フローリング幅+加工寸法-フローリング幅=加工寸法です。
この方法を使用する直貼りフローリングの張り方についてまとめたページはこちら
・オフセットのひかりつけ
リフォーム框など下地と仕上がり寸法がオフセットしている場合には寸法分を調整して定規を作りひかりつけます。
例えばリフォーム框は下地高さ+リフォーム框高さ=リフォーム框の高さ-下地から框仕上がりの高さとなります。
リフォームで仕上げ材を加工する場合には必須の方法です。
3・桟の割り付け(両端に隙間)
桟の割り付け計算は大工の中で昔から伝えられている計算方法です。
空間の中に同じ幅の桟を等間隔で割りつける計算です。
桟から桟のピッチを割り付けるためには隙間区間が1スパン余ります。
余ったスパンに桟の幅を足して割ることでピッチが求められます。
なので(総幅+材幅)÷割数となります。
4・桟の割り付け(両端に桟)
上で紹介した割付けに似ていますが、空間の両端に桟を据えた状態で残りの桟を等間隔で割り付ける計算方法を紹介します。
桟から桟のピッチを割り付けると桟一本分余りますので、そう幅から桟幅を引いた状態で割るとピッチが求められます。
なので(総幅-材幅)÷割数となります。
5・蹴上げの割り付け(電卓の使い方)
次は電卓の便利な機能についてご紹介します。
・倍数の求め方
電卓では数字に(+)(+)(=)(=)(=)(=)と打つことで求められます。
・階段の蹴上げ寸法の割り付け
階段の蹴上寸法は階高から均等に割りつけます。
階段の蹴上げ寸法の割り付けは階高(÷)段数(+)(+)(=)(=)(=)(=)で求められます。
階段の原理やプレカット階段の納め方についてまとめたページはこちら
6・6段廻り段板の木取り
大工は材料の発注を行いますので材料の使い方(木取り)を考える必要があります。
特に廻り階段の段板は木目方向を考慮する場合に無駄なく木取りを行うためには慣れが必要です。
方法はcadなどを使用して形を把握すると簡単に理解できます。
計算と呼べるかは微妙ですが、作成者はcadをこのような計算を行う計算機だと考えています。
7・ピタゴラスの定理について
ピタゴラスの定理(三平方の定理)は直角三角形の辺の比率を計算で求める方法です。
大工の作る屋根は規矩術という日本古来の数学が用いられますが、規矩術は直角三角形の辺の比率を図式解法で求める方法なので、ピタゴラスの定理と近い性質を持ちます。
そのため大工にもなじみの深い計算式です。
ピタゴラスの定理はc² = a² + b²(斜辺の二乗=底辺の二乗+高さの二乗)という計算です。
この計算は実は隅木長さの二乗=Ⅹ長さの二乗+Y長さの二乗+高さの二乗となります。
隅木の長さを求める場合には利用してください。
8・さしがねを計算機に(筋交い)
ピタゴラスの定理は筋交いの長さ計算にも使用できます。
ピタゴラスの定理の計算のデメリットは計算が面倒で間違いやすいことです。
筋交いのように完全な寸法が必要ない場合にはほかに方法があります。
筋交いの墨付けは2つの方法があり、一つが実際に現場に当てて墨をつける方法で、もう一つが現場に当てずに角度や長さを求める方法です。
角度や長さを求める方法では幅(柱間)の1/10の寸法:高さ(横架材間)の1/10の寸法の角度をサシガネで出して墨付けを行います。
当然角度を測る際の寸法部分同士の距離が筋交い長さの1/10になりますので計算機を使用しなくても寸法が分かります。
※実際には計算方法は、微調整(切り直し)が必要な筋交いの墨付け作業には向いていませんので滅多に使用しません。
9・6段(3段)廻りの交点の求め方
半帖の3段廻り階段は90°を3段で割るため30°になります。
30°の直角三角形は1:2:√3となるので√3の数値1.7320508(ひとなみにおごれや)を覚えていると簡単な計算で墨出しが行えます。
廻り階段の下地部分は軸柱芯から下地部分までの距離の正方形で表すことができ、下地上の芯は、軸柱の芯から下地までの距離÷√3で求めることができます。
10・天井のむくりの比率
天井の高さはドーム状に上げる(むくりをつける)という文化があります。
ドーム状にあげるための吊り木部分での比率についてご紹介します。
・中3本吊りの場合
中3本吊りの場合には中心で1上げる場合には、前後の吊り木部分で3/4の高さになります。
※全スパンで1/4上がり
・中4本吊りの場合
中4本吊りの場合には中2本は同じ高さになるため2つを1とすると前後の吊り木部分で2/3の高さになります。
※全スパンで1/6上がり
・中5本吊りの場合
中5本吊りの場合には中心で1上げる場合には前後の吊り木部分で8/9の高さになり、両端の吊り木部分で5/9の高さになります。
※全スパン1/9上がり
計算の注意点
・計算上の数値以上に大切なこと
モノづくりでは計算は不可欠です。
プレカットや現寸図、cadは全て計算の手法です。
しかし木で家を建てる大工は計算で出した数値だけでモノづくりを行うわけではありません。
大工技術のほとんどが、加工精度を考慮した微調整や木の性質や屋根の重みなどによる経年の変形を見越した微調整などについての対策法です。
計算は非常に効率を高めますが、その後の調整が非常に大切だということを忘れないでほしいと思います。
・計算にはたくさんのアプローチがある
上でご紹介した桟の割り付けについては考えれば他にも計算式が思いつくのではないでしょうか?
規矩術にもたくさんのアプローチがあります。
同じ答えを求めるために計算式は複数存在します。
計算を行うと必ず効率が高いというわけではありません。
たくさんの計算式を知って、その場に応じた最も効率の高い計算式を使用するのがプロの役目です。
規矩術(大工が使用する屋根勾配の計算法)についてまとめたページはこちら
・計算を使う方法
垂木掛けの高さは非常に簡単な計算式ですが絶対に間違えてはいけない計算でもあります。
下屋の施工は建前の日に行いますので落ち着いて計算式を思い出している暇がありません。
前もって計算をしておくなど確実な方法から試してください。
最後に
いかがでしたでしょうか?
規矩術などと比べると学校で習ったことのある簡単な計算ばかりだったと思います。
計算が好きな方は自分なりの計算式を考えてみてください。
自分で考えた計算式はド失敗の可能性もありますが、ブッチギリの効率が出る場合もありますので、ぜひ試してみてください。