大工が知っていると便利な豆知識(文化やモノづくり)まとめ

無垢材の扱い方の修得について

大工工事には直接関係ない知識が施工に応用できることがあるのでまとめました。

歴史の長い大工文化の中には、古くは日本で当たり前だったことで廃れてしまった文化も含まれており、古い文化を知らないと意味が理解できない決まりがあります。

例えば昔の職人は、幼少期に課せられていた家の手伝いなどの力仕事で、体の使い方などが当然に養われていたはずです。

逆に近年になって使えるようになった便利なツールが大工に応用できることもあり、使えそうなものを集めてみました。

目次

作成者プロフィール
日本文化について
・日本古来の計算術
・日本ならではの木材の価値観
・宗教や茶道文化と建築
・地域性による建築物の違い
・神事と大工の関係

モノづくりのスキルについて
・デッサンや彫刻
・パース(姿図)
・CAD
・模型や3D-CAD
・体の使い方(体幹など)

社会的な知識
・経営について
・道具メーカーについて
・木材の問題
・ゴミ問題
・コミュニケーション

最後に

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記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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日本文化について

・日本古来の計算術

大工には古くから伝わる「規矩術」という独自の計算術があります。

現在の建築で大工が規矩術を使うことは滅多にありませんが、そもそも大工のためにある計算術なので知っているに越したことがありません。

規矩術とは三角平方の定理(ピタゴラスの定理)の図式解法のようなもので隅木屋根の勾配や長さを求める計算法です。

※現在の建築でもこの計算術の影響で屋根の角度は「度」ではなく縦横の比率で表します。

規矩術について詳しくまとめたページはこちら

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・日本ならではの木材の価値観

日本建築(和室)では杉材や桧材を白木仕上げで使用します。
木材の価値は木柄によって付けられ、価値の高い木柄の木材を育てる仕事が林業です。

価値の高い木柄とは美しさや希少性によって判断され、高いものは同じ樹種と言えないほどの値段が付きます。
価値基準は、色や節の有無、曲がりの有無はもちろん、年輪の細かさや部位など希少で美しいものが高くなります。

国産木材(杉・桧)の価値についてまとめたページはこちら

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・宗教や茶道文化と建築

大工は宗教建築や茶室建築にも関わります。

社寺建築

神社仏閣は宗教的な象徴でもあるため特殊な化粧性や長い耐用年数が必要になります。
神社仏閣の建築を行う大工を宮大工と言います。

数寄屋建築

茶室は、数寄屋建築と呼ばれる茶道を行う建物で千利休の妙喜庵などが有名です。
現在の在来工法は、数寄屋建築を元に派生したものだそうです。
数寄屋建築も専門に行う数寄屋大工がいます。

大工の専門性について種類別にまとめたページはこちら

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・地域性による建築物の違い

作成者は京都で大工を行っていますが、大工を始める際に大分県の山田舎に5年ほど住んでいた経験があります。

地域によって建築物に求められることが異なります。

京都では建築物より土地の値段が高く、店舗やマンションなど様々な工法や用途の建築物が建てられています。
特に防火性などの法令を遵守する必要があり、施工についても養生や工期など第三者への影響を考慮する必要があります。

大分県では建材の地産地消(県産木材を使用する)でダイナミックな形状の木造住宅も求められることもありました。

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・神事と大工の関係

建築では起工式や上棟式を行う文化が残っています。

上棟式は、祭壇に墨壺・サシガネ・ちょうなをまつり、神主さんを招いて儀式を行います。
現在では本格的な形式で行うことは滅多にありませんが、大工はこのような神事をつかさどる職業です。

他にも道具に神が宿るとして、道具箱に座ることを禁じる文化や、家事に弱い木造建築を建てるものとして水の神を尊重して水回り(トイレや水栓などの設備)機器の上に刃物を置くことを禁ずる文化などがあります。

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モノづくりのスキルについて

・デッサンや彫刻

モノづくりの基本スキルがデッサン(目の前にあるものを正確に書き表す絵)や彫刻(粘土も含む)です。

デッサンや彫刻を行うには観察力と表現力に加え物理的な感覚や3次元理解力が必要です。

例えば
人を書く場合には骨や筋肉、皮膚の構造を知る必要があり、立体物を見て平面に変換する能力が必要です。

※このスキルがあれば、建築でも図面や打ち合わせだけで仕上がりや工程を頭の中だけで瞬時に考えることができます。

モノづくりの能力など大工に必要な適正についてまとめたページはこちら

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・パース(姿図)

パースとは建築図面の一種で姿図のことです。
デッサンとは逆に、現実に無いもの(これから作る物)の姿(仕上がった状態の見た目)を平面図などの情報から描き表す絵です。

モノづくりのプロである大工は平面図だけでも仕上がりを想像できますが、お客さんなどは平面図だけでは形を理解できません。

当然、口で伝えるよりも絵に表した方が伝わりやすく、お客さんの満足につながります。

パースは絵が苦手な方でも写真の編集だけで簡単に作成できる方法があります。

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・CAD

設計図をパソコンで書くソフトをCAD(jw-cad)と言います。

平面cadは無料のものもあり、機能がシンプルで大工さんであればすぐに使いこなすことができます。

一般的には平面図や立面図を書くために使用するソフトですが、使い方によってはパースや現寸図(加工図)、構造図(看板板)なども手書きよりも簡単に作成できます。

細部の寸法まで正確に測り出せるので規矩術(三平方の定理の図式解法)を応用して計算機として使用することもできます。

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・模型や3D-CAD

大工にとって平面情報から立体物を想像する能力は大工に必須の能力になりますが、この能力を実務中に身に着けようとすると慎重になってしまい効率的とは言えません。

最も安くリスクの低い練習法は模型を作成することです。
例えば、発泡素材で周り階段の収まり模型(1/10)を作る場合、材料代は1000円程。
作成者もこの練習で一気に三次元理解力が向上しました。

実際の工事で模型を作成するとお客さんも大喜びされるほか、同じものを2度作ることになり墨付けスピードが上がり失敗が減ります。

※3Dcadでも効率的に学べますが、ソフトが20万円程します。

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・体の使い方(体幹など)

大工はある程度体力仕事でもあります。
体の使い方は学生時代のスポーツ経験によって大きく差が出ます。

例えば、スポーツやダンスで最初からある程度上手くできる人がいますが、それは体幹やバランス感覚、体の柔らかさなど体の使い方が器用な人です。

大工作業でも一定のフォームがありますが、フォームや力の入れ方は口頭で説明して伝えることが難しく、ここで躓くと修得に時間がかかります。

体の使い方が苦手な方には格闘技がおススメです。
作成者も大工を始める前に1年ほど少林寺拳法を習っていました。

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社会的な知識

・経営について

大工は一人親方という個人事業主(フリーランス)になり、営業や事務などをそれぞれの大工さんが行っています。

職人であるため毎日仕事をして失敗などをしなければ生活していけるので難しく考える必要もありませんが、お客さんに独自のサービスを提供したいと考えると利益を出してサービスを開発するなどの作戦を考えなくてはなりません。

近年、SNSの普及で職人がお客さんに直接アプローチすることも容易になりましたので、大工職人もいろいろな形態を選べるようになっています。

経営など大工の難易度についてまとめたページはこちら

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・道具メーカーについて

道具は大工にとって経費の伴う所望品でもあり、コレクションアイテムでもあります。
機械メーカーではマキタ、日立(現ハイコーキ)、リョービ、MAXなどがあります。

作成者は主にマキタを使用し、丸ノコと空調服などはリョービ、釘打ち機はMAXを使用しています。

※もともとは主に日立を使用していましたが、修理(アフターメンテナンス)が非常に粗悪なので、最近はスライド丸ノコとチップソーのみ使用しています。

日常使用する墨壺やコンベックス、ボード関係などの道具はタジマのものがおススメです。

手道具は気になった鍛冶屋さんに直接電話して購入するのがおススメです。

機械工具(パワーツール)についてまとめたページはこちら

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・木材の問題

大工は多くの木材を使用する職種です。
現在の建築で多く使用されている木材はスプルス(SPF材)という海外材で、樹齢の長い大きな木を伐採して日本に運ばれています。

30年ほど前には海外のラワン材やトガ材が同様に使われていましたが、現在は数が減ったことで値段が上がり使用頻度が減っています。

逆に日本では戦後に大量植林されていた地域があります。

その後の安い海外材の輸入によって日本材が売れなくなったことで、大量に植林された日本材が放置され現在でも成長し続けています。
成長しすぎると切り出し作業も行えないため問題となっています。

大工が使用する建材についてまとめたページはこちら

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・ゴミ問題

建て替えやリフォームでは大量の産業廃棄物が発生し、処理費用は年々高騰し続けています。
処理も含めて継続的な建築業界の在り方を考える必要があります。

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・コミュニケーション

大工は個人事業主ということもあり、一人で作業を行うことの多い仕事ではありますがコミュニケーション能力は必須です。

作成者はコミュニケーションが正直苦手です。
コミュニケーション能力が低い人はスキルや知識でカバーするしかありませんので、習得が非常に大変になります。

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最後に

いかがでしたでしょうか?

みなさんも「道具箱に座るな」と怒られた経験があると思います。
科学的な根拠は全くありませんが、それなりに納得できたのではないでしょうか。

モノづくりにおいて、初めてのはずなのになぜか上手く作る奴を見たこともあると思います。
それは生まれつき出来たのではなく、実はたくさんの経験値を応用しているのです。

今回ご紹介したことは大工に応用できることのほんの一部にすぎません。
ぜひ皆さんの得意なことも大工に応用できないか試してみてください。

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