丸ノコの使い方【プロ用】キックバック対策や逆手切りの修得法

丸ノコの使い方や決まりについて

丸ノコは大工にとって最も使用頻度の多い道具で、手ノコの代わり(逆手切り)でも使用します。
危険な道具なので、練習の方法を間違えると取り返しのつかない大事故にもつながります。

丸ノコはそれだけ危険があるにもかかわらず、正しい修得方法が確立されていない道具でもありますので今回は実際の現場作業で安全に修得する方法についてまとめました。

目次

作成者プロフィール

説明用動画

丸ノコの決まりについて
・丸のこ等取扱い作業従事者教育について
・公の講習と実際の現場作業の違い
・講習内容と実際の方法の違いによる問題

大工と丸ノコについて
・安全カバーの無効化について
・逆手切りを行う理由について
・丸ノコの構造の不思議

大工が実際に行う使用法
1・押して切る方法
2・逆手に持って切る方法
3・削る方法
4・上記3つの組み合わせ

丸ノコの注意点と修得法
・キックバックの原因
・手ノコとキックバック
・逆手切りを修得するためには

逆手切りを行う状況
・逆手切りを行う場合
・逆手切りを行わない場合

逆手切りの方法
・逆手切りを行うための丸ノコ設定
・切り始め時のポイント
・切断時のポイント

最後に

機械道具(パワーツール)についてのまとめページはこちら
大工マニュアルのトップページはこちら

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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丸ノコの決まりについて

丸のこ等取扱い作業従事者教育について

・丸のこ等取扱い作業従事者教育について

丸ノコは、加工能力が高く使用頻度も高い道具なので、大ケガを伴う作業事故の多い道具です。
このことから、国(厚生労働省)から建設業や安全衛生機関に作業事故を減らす対策を進めています。

この対策で行われているのが「丸のこ等取扱い作業従事者教育」という講習で、大勢の作業員が作業する工事現場などでは、この講習を受けたものでないと施工できないという制限があります。

中小建設業特別教育協会での丸のこ等取扱い作業従事者教育の案内ページ

・公の講習と実際の現場作業の違い

大工は様々な道具を工夫して使用する職業ということがあり、丸ノコも古くから様々な方法で使用されています。

「丸のこ等取扱い作業従事者教育」は、小さな現場には強制力がありませんので、作ってなんぼの職人は、速さと正確さのために安全を犠牲にしている状態になっています。

※現実に一般の工事現場では公の講習内容で使用している工務店(大工)はほとんどありません。

・講習内容と実際の方法の違いによる問題

大工の見習いを始める若者の中には、丸ノコを講習内容ではない使用法で工事を行う工務店に弟子入りすることもあります。
もちろん講習を受けることはできますが、公に行うことができる講習の内容では、実際に行われる作業を安全に行えるものではありません。

逆に実際の作業を安全に行うための講習を行うことができない状況にあり、結果的に丸ノコを修得するには、無講習で危険作業を行いながら修得するしかない状況になっています。

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大工と丸ノコについて

大工にとって丸ノコは道具

ではなぜ大工は危ないと言われる使い方をするのでしょうか?
丸ノコと大工の関係についてまとめました。

・安全カバーの無効化について

大工は安全カバーを無効化して使用することがほとんどです。
ではなぜ大工は安全カバーを無効化するのでしょうか?

大工がカバーを無効化する主な理由は引っかかるからです。
大工が行う木材切断のには、安全カバーが正常に稼働しない方向(状況)があります。
また、精度の高い加工を行うための刃の確認や微調整を行う上で邪魔になってしまいます。

※安全カバーはついている方が絶対的に安全であることは間違いありません。
※もちろんメーカーも絶対に無効化してはならないとしています。

・逆手切りを行う理由について

丸ノコは正しく使用すると、手ノコの代わりとして使用することができます。

日本古来の仕口や継ぎ手は、手ノコで加工できるように設定されています。
丸ノコが普及した際に、加工力の高い丸ノコを大工が手ノコの代わりとして使用し始めたのは必然と言えます。

・丸ノコの構造の不思議

日本のノコギリは引っ張って使用する道具ですが、なぜ丸ノコは押して使用する形なのでしょう?

丸ノコはもともと海外発祥です。

海外では手ノコは押して使用しますので、丸ノコも当然押して使用する形になっています。

海外の家を作るための道具の講習(丸のこ等取扱い作業従事者教育)では、日本の家を作る大工への講習としては不十分なのです。

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大工が実際に行う使用法

実際の現場作業と講習との違い

実際の現場で大工は丸ノコをどのように使うのかをまとめてみました。

1・押して切る方法

講習でも教えられる一般的な方法です。
適正な高さの作業台の上で、定規などを使用して木材を切断します。

※講習の内容で使用しても丸ノコは安全な道具ではありませんので、プロでない方にお勧めできる道具ではありません。

押して切る方法については丸ノコ定規の動画で解説しています。

丸ノコ定規の使い方についてまとめたページはこちら

2・逆手に持って切る方法

丸ノコを手ノコの代わりとして使用する方法です。
手ノコで行うことができる作業(斜めのカットや深さ調整など)を行います。

片手または両手で丸ノコを持ち、スイッチを小指で操作します。

コードレスタイプの丸ノコは、逆手切りには向きません。
コードレスタイプは二段階スイッチ(安全装置)が付いていますので、逆手に持つ状態では安全装置を操作できません。
加えて逆手切りは、切り込み角度の微調整を行うので、バッテリーの重さが精度に影響します。

3・削る方法

大工は丸ノコで、ディスクグラインダー(サンダー)のように削る作業も行います。

この方法は、実際の現場では良く使いますが危険度が高いため今回はご紹介しません。

逆手切りを修得して、丸ノコの動きを完全に把握できるようになってから取り組むことをお勧めします。

※鑿やマルチツールなど他の道具でも行うことができる加工です。

マルチツールについてまとめたページはこちら

4・上記3つの組み合わせ

実際の作業では、上記の3つの作業を組み合わせて行います。


材料(ベニヤなど)を立てた状態でカットするなど

他の方法と比べて危険性も増しますので、周りの先輩方が行っていても気軽には真似しないことをお勧めします。

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丸ノコの注意点と修得法

丸ノコの修得には手ノコのスキルが必須

丸ノコを扱うにはどんなことに注意すればいいのかをまとめてみました。

・キックバックの原因

丸ノコを使用する上で最も気を付けるべき特性がキックバックです。
切断中に鋸刃が締まると、モーターによって回転方向に弾かれる現象です。

丸ノコがキックバックで弾かれた際に、回転した刃によって大ケガをする事故が丸ノコ事故の大半を占めます。

・手ノコとキックバック

手ノコでも刃が締まると引っかかります。


材の両端に台を置いて中心部分をカットする場合など

本来キックバックの原因については、丸ノコの講習で教わるようなことではありません。
手ノコを修得する段階でキックバックの原理や状況を理解できることなのです。

丸ノコの事故が多くなる原因は、手ノコを使えない状態で丸ノコを使用している人が多いからです。

・逆手切りを修得するためには

逆手切り(丸ノコ)を修得するためには、まず手ノコの修得が必須です。

逆手切りは手ノコの代わりとして行う方法ですので、手ノコで出来ないことを丸ノコで行うのは無謀です。

手ノコは比較的簡単に修得できるスキルですので、丸ノコの修得には手ノコの練習が最も近道です。

僕も大工の見習いを始めたころは、半年間手ノコだけで木材の切断を行っていました。
手ノコが使用できるようになってから、丸ノコを使用するとスムーズに修得することが出来ました。

手ノコの使い方についてまとめたページはこちら

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逆手切りを行う状況

逆手切のメリットが活かせる状況

逆手切りの方法の解説の前に、どのような状況で逆手切りを行うのかをまとめました。

・逆手切りを行う場合

定規を設定するまでもない時

定規設定の時間短縮のために行う場合です。
様々な方向から隅に合わせて切り込む場合に行います。

※斜めの墨に合わせて切り込む場合、押して切る方法では正確に切ることができない場合があります。

斜めにカットするとき

斜めにカットする場合には、丸ノコの定規を正確に設定すること自体が難しくなりますので、手ノコの代わりとして逆手切りで墨に合わせてカットします。

墨を出さずに直角に切る場合など

正回転でも用いる、丸ノコ台の形状を利用した直角カットの方法も、逆手で行うことがあります。
逆手に行うことで、姿勢が良い状態で墨が見やすくなります。

・逆手切りを行わない場合

逆手切りの特徴に合っていない使用方法についてまとめました。

刻み作業

刻み加工の作業には逆さ切りは向いていません。
刻みでは、たくさんの材料をまとめて加工するので、定規を設定して行う方が早く綺麗に加工することができます。

※全て逆手切りで行う方が早いと勘違いしている大工さんも多いのですが、汚くて遅いことを危険な状態で行う必要はありません。

危険な作業

危険と感じる場合は丸ノコを使用しません。
無理をせずに手ノコで切断しましょう。

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逆手切りの方法

逆手切で墨通りカットする方法

丸ノコで手ノコの代わりとして(斜め切りなど)カットする場合で解説します。

・逆手切りを行うための丸ノコ設定

リョービ 電子丸ノコ チップソー付

丸ノコはリョービ製をお勧めします。

刃を直角に設定する

丸ノコの角度を直角に設定します。
回しこむ場合に、回転軸が刃の面とズレるので危険です。
また、台が曲がっていると同様のずれが発生します。

安全カバーを上げる

逆手切りを行う場合には安全カバーを無効化します。
カバーがあると刃の側面を見通すことが出来ず、正確に切断することができません。
逆手切りのキックバックは手前方向に起きる可能性がありますので、確実にキックバックを抑えられる姿勢で行う必要があります。

HiKOKI(旧日立工機)スーパーチップソー テフロン 径165mm 52枚刃

ブラックテフロンの初期モデルです。
なかなか手に入りませんが2000円程で売っている場合があります。

※作成者は10年ほどこのタイプを使っています。

 

刃を深く出す

逆手切りを行う場合、基本的には刃の深さを一番深い状態に設定します。
深くすることで、定規が手に近くなり安定します。

※深さを設定して(定規面を材に当てた状態で)逆さ方向に使用する場合は、正回転(押して使用する方法と同様です。

・切り始め時のポイント

逆手切りの切り始め時のポイント切る方向を考える

切り始める前に、最も安全で切りやすい方向を設定します。
丸ノコの定規部分の形状や持ち手、キックバックの軌道などを考慮します。
斜め切りの場合は、主に定規部分の30mm側を材料に当てる方向が切りやすくなります。

※材料の形状によっては丸ノコで切ることができない場合もあります。

丸ノコを安定させる

逆手切りでは、丸ノコの定規部分を常に材に当てて安定させます。
切断時には台を材にスライドさせます。

逆に、丸ノコを逆さにして床やひざに置いて安定させる方法もあります。

※小さい材を切るときに使用する技ですが、当然危険度が増しますので一般の逆手切りがマスター出来てから行うようにしてください。

切り込みの時点で切断面を設定する

切り込み時点で最も重要なポイントです。

丸ノコも手ノコと同様に、切り始めると切断面は後から変更することができません。
刃の側面を見通して、墨通り切れる面に丸ノコの切り始める角度を設定します。

・切断時のポイント

逆手切りでの切断時のポイント丸ノコでの逆手切りの切断時のポイントです。
切断のポイントは、手ノコとほぼ一緒です。

基本の動作

逆手切りの基本的な動作は、スライド丸ノコの動きを体で再現する状態です。
切り始めに設定した切断面に対して正確に動きます。

正確に移動するために丸ノコ(刃の面)は体の正面で使用します。
上半身は固定して膝などを使って動きます。

余り切る方向に力をかけずに、丸ノコ角度の微調整に集中します。

スライド丸ノコの使い方についてまとめたページはこちら

正確に切る方法

逆手切りで墨通り切るためには、上端と側面を交互に切り込むと墨に合わせやすくなります。
上端→側面→上端→側面と順番に墨に合わせて動きます。

深さの設定について

逆手切りの場合には基本的に丸ノコで深さは設定しませんので、切り込み過ぎに注意します。
後から手ノコで切り直しましょう。

リスクマネージメント

逆手切りを行う上で最も必要なポイントが、先を予測(リスクマネージメント)することです。
材の切り落としの落ちる方向、重さや木の癖による刃の締まり、周りの状況などを常に目を配りながら先を予測して作業を行います。

建前など大工には危険な作業が多くありますので、安全に作業を行うためには先を予測するスキルは大工を行う上で非常に大切です。

丸ノコでの切断時も、常に先を予測する能力を鍛えるように心がけましょう。

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最後に

いかがでしたか?
丸ノコは大工にとって最も使用頻度が高く、全ての作業で使用する道具ですので、絶対に修得したいスキルではありますが、失敗(ケガ)はできませんので、修得に時間が掛かります。

良質な経験を積めば確実に修得できることなので、焦らずに進めてください。

※今回ご紹介した内容は、会社(工務店)によって絶対にNGとしている場合もありますので、会社の安全規則に従ってください。

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