鋸(ノコギリ)の使い方【プロが解説】丸ノコを使う前に覚えよう
今回は大工用の日本の鋸(ノコギリ)についてまとめました。
目次
鋸の特徴2つ
1・手ノコ単体で必要になる場面は少ない
2・刻みを修得するには必須
鋸の形について
・刃の仕組みについて
・鋸の柄について
手鋸の使い方
・鋸の本来の性能を引き出す
・精度を高めるには
・早くなるには
修得の方法
・力を入れるタイミングを体で覚える
・筋トレ(二の腕・腹筋)
手鋸だからできる事
・機械で切れない(遅い)作業
・替え刃だから出来る事
替え刃式について
・なぜ置き換わったのか?
・替え刃式手ノコの種類
・おススメの替え刃タイプ
・替え刃の手入れ
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
鋸の特徴2つ
1・手ノコ単体で必要になる場面は少ない
現在の木造建築現場において、木材の切断を行うには丸ノコ・マルチツール・レシプロソーなど、様々な機械が使用されています。
機械が使用できる環境下では、速さも正確さも比較にならず、ハンドツールの出番は少なくなります。
2・刻みを修得するには必須
刻み(木材加工)技術の修得を目指す場合には、手ノコを使用する技術は必須です。
特に手ノコは実力の差が出やすく、加工時間に大幅な差が出る原因になります。
また、丸ノコなどの切断用機械を使用する際にも、手ノコの技術が活かされますので、丸ノコを使用する限界にも差が出てきます。
鋸の形について
・刃の仕組みについて
「あさり」について
ノコギリの刃は、順番に並んだ刃が互い違いに外側に曲げられています。
その曲がりを「あさり」と言って、刃の身に隙間を作り摩擦が起きないようになっています。
刃先の形状(縦引き・横引き)
ノコギリの刃は、切断する木材の切断方向(縦・横)によって使用する刃の形が違います。
縦引きは、刃先が鑿のように平たい形状で木材の縦繊維をそぎ取るように加工出来る形になっています。
横引きは、ナイフの先のように尖った形状で、木材の繊維を削り取るように加工できる形になっています。
ノコギリの寸法やタイプ
大工が使用するノコギリの中でも用途に応じて様々なサイズが用意されています。
一般的な形では、サイズが長くなると、刃厚も刃の大きさも比例して大きくなります。
また、繊細な作業に使用するための導付鋸(細かい刃の並んだ薄い刃をガイドで支えるタイプ)があります。
・鋸の柄について
日本のノコギリには長い柄が付いています。
手ノコを使用する上でこの柄の長さは、速さや正確さなどに影響する重要なポイントになりますので、大工は短い柄の鋸は使用しません。
※邪魔になる長さでもあり、短い柄やピストル型の柄のものも売られています。
手鋸の使い方
・鋸の本来の性能を引き出す
刃の全体を使う
鋸は、刃の全体を使うことで、1ストロークで切れる量が最大になります。
繊細な切断では、手のブレを最小限に抑えてスムーズに長く引きます。
柄を長く持つ
木材を切断する場合には、切断部分を目で確認しながら鋸の操作を行います。
確認できる状態で、繊細な操作をしながら力強く引けるように、柄の長さが設定されています。
引くときに力を入れる
日本の鋸は引いて使用するように作られています。
引いて切ることで、薄い刃でも精度よく素早く切れる特徴があります。
押す時に力を入れても切れないどころか、刃が曲がります。
また、鋸は力を入れれば入れるほど切れる特徴もあるので、素早く切る場合には力を入れて引きます。
まっすぐ切る
日本の鋸は、平面を作るために作られていますので、曲面は切ることができません。
切り込んだ時点で面が決まるので、後で調整できません。
無理に曲げると刃が曲がりますので、他の道具で切るようにします。
丸ノコの逆手切りの方法(手ノコの応用)についてまとめたページはこちら
・精度を高めるには
導付鋸は必要ない
最近は仕上げでの突き付けのカットは機械を使用します。
和室の造作でも、スライド丸ノコで鴨居の目地や廻り縁の仕口も作れます。
導付鋸の練習をするよりは、機械での加工を練習した方が現実的だと思います。
見通して切る(重要!)
手ノコを使用する場合、角部分から切り込みます。
角から引き手方向には引き込むので調整が容易ですが、奥側への切り込みも調整が必要です。
手ノコで切り込む場合には、刃を顔の正面に構え、体に対してまっすぐに切ります。
両目で刃の面を見通して、刃の面を狂わさないように引いて切ります。
切る方向に合わせて体の方向を調整します。
切り始めの時点で刃の面を設定しておかないと後で調整できません。
※刃を見通して切る技術は、丸ノコを逆さにもって使用する場合には、必ず修得しておいてください。
ガイド(定規)を使用する
手ノコでも定規を使用する方法があります。
墨に木っ端を合わせて、それをガイドに切り込みます。
鋸で化粧材を切断する場合、引き手方向の切断部分は、原理的に刃が引き出される状態になるので、木口が荒れます。
ガイドを使用する場合には、引き出される表面をガイドで抑えるので、木口が荒れずに綺麗に仕上ります。
※ガイドは鋸の「あさり」で傷が付き、精度が狂うので頻繁に交換します。
引っ張りながら墨に合わす
切り進む段階では、鋸を引きながら墨を外さないように調整します。
※薄刃の鋸で、角から奥に向かって精度良く切り進めることは、非常に難しい技です。
・早くなるには
刻み全般に言えることですが、正確に刻めるのであれば、早いに越したことはありません。
手ノコは、早く加工するにはパワーが必要です。
もちろん精度の悪い刻みは意味がありませんので、丁寧かつ豪快に切る必要があります。
技能試験を一発合格するための練習法についてまとめたページはこちら
修得の方法
手ノコの修得も、使うことが近道です。
使用する機会が少ない方は、暇な日に使わない柱を切りまくってください。
・力を入れるタイミングを体で覚える
手ノコも、体幹を上手く使えると正確に力強く引くことができます。
体幹を使うには、肩と骨盤がネジレないようにして、腹横筋に力を入れます。
※腹膜筋は息を吐き切るときに締まる「おへそ」の上の筋肉です。
切りにくい角度・高さなど、様々な姿勢・状況(刃のタイプ)を想定して練習してみてください。
・筋トレ(二の腕・腹筋)
手ノコは、力をかけながら正確にストロークするために、基本的に両手で引きます。
手ノコを使用する筋肉は、普段使用しない二の腕の筋肉と腹筋ですので、恐らくかなりキツイ筋トレだと思います。
※ついでに細マッチョになって、女子受けを狙いましょう。
手鋸だからできる事
・機械で切れない(遅い)作業
機械で切れない状況では手ノコを使用します。
手ノコの修得には機械の特性も知る必要があります。
機械で切るには危ない場合
丸ノコは大工道具の中でも非常に危ない道具でもあります。
作業でケガをしては元も子もありませんので、少し時間がかかっても安全にカットできる道具を選びましょう。
道具ごとに切断深さがある
丸ノコの切断深さは一般的なタイプで60㎜程。
切れ残った部分は、手ノコなどの切断が可能な道具を選ぶ必要があります。
丸ノコは薄いものが切れない(プラスチックなど)
大工は木材以外でもプラスチックなどの樹脂製の材料をカットすることがあります。
2㎜程の薄い樹脂製品は割れやすく、丸ノコではカットできません。
マルチツールは便利だが遅い
マルチツールは他の道具ではカットできない状況でも使えるとても便利な道具です。
しかし、構造上他の道具(手鋸)と比べ切断能力が低く、切断に時間がかかります。
軽作業では手道具が便利
足場での作業などでは、持ち運びに便利な手道具の出番も多くなります。
最近は充電式の道具も増えましたが、作業量が少ない場合には手道具が便利です。
・安い替え刃だから出来る事
切断部分に釘などがあり、丸ノコの刃を痛める可能性がある場合には、手ノコの刃(値段が安い)を犠牲にすることがあります。
釘を切ることが避けられない場合は、刃を痛める部分が少なくなるように、刃先部分だけで釘付近を切ります。
替え刃式について
手ノコは完全に替え刃に置き代わってしまった珍しい道具です。
・なぜ置き換わったのか?
切れ味
切れ味は目立てタイプの方が切れます。
切り込んだ時にグッと入っていく感じがします。
値段
昔の手ノコは非常に高かったようです。
替え刃は300円ほどのものもあり、圧倒的に安いです。
精度
替え刃の新品はまっすぐです。
目立てを頼んでいた時代には、仕上げ鋸でも若干の流れ癖があったようです。
扱い方
替え刃は戻すときに力を入れすぎると曲がりますが、全鋼(目立て)タイプは割れます。
全鋼のタイプは錆びさせないように常に手入れが必要です。
・替え刃式手ノコの種類
メーカーによる方式の違い
最もメジャーなのはゼットソーというメーカーが作った替え刃方式です。
ゼットソー方式の替え刃は、様々なメーカーが作っていますので、かなり安いものもあります。
薄刃ではレザーソーというメーカーが強いです。
最近は、折りたたみ鋸の替え刃方式で、シェアを巡って各社開発競争しているようです。
折たたみ式
僕は、折りたたみ鋸を使用しません。
手ノコは単体で使用することはありませんので、手ノコだけ折りたたんでもあまり意味がありません。
また、大体のことは鑿で切れる場合が多く、実際に切断する場合では、折りたたむ必要がありません。
替え刃の値段が高いこともあり、僕は折りたたみ式の手ノコは必要ないと思います。
・おススメの替え刃タイプ
現場用(木造の新築)
・パイプソー
そもそも樹脂用鋸刃なので刃が細かく様々な用途で使用できます。
値段が安く、刃幅の狭さも現場で役立ちます。
・ゼットソー333(仮枠鋸)
Z かりわく 替刃
ゼットソーの中でも大きくて硬いタイプです。
建前など高所作業では丸ノコを持ち歩くことが難しく、丸ノコの代わりに早く切れる大きい手ノコが役立ちます。
※大きいノコは刃先でのケガに注意が必要です。
DIY用
・265(スタンダードな手ノコ)
Z ゼットソー ブローハンドル265本体
最もスタンダードな替え刃手ノコのシリーズです。
この替え刃規格はたくさんの会社で採用されています。
DIYでは、丸ノコを使用しないことも多いかと思いますので、取り回しも良いスタンダードなサイズが使いやすいと思います。
・手頃な替え刃
バクマ 替刃式鋸 265 替刃 3枚入
刃の曲がりや傷みを気にせずどんどん交換できる安いタイプの替え刃がおススメです。
※作成者もこのタイプを使用しています。
技能大会・技能試験用
・8寸(縦引き)
Z ゼットソーたてびき 8寸目(250㎜) 替刃
「縦引きタイプ」は木の繊維に平行に切断する場合に使用する形状の刃です。
8寸(横引き)
Z ゼットソー8寸目)( 250mm)替刃
作成者は両刃鋸を使用していません。
切れ味が落ちたらすぐに交換できる気軽さが替え刃のメリットです。
※課題に応じて必要な鋸を使用します。
・替え刃の手入れ
全鋼タイプは、かなり手入れの必要な道具でした。
替え刃のタイプはメッキ処理されているので錆びにくく、濡れた時だけ錆止めする程度で大丈夫です。
替え刃の焼き入れは、そこまで強くないので、錆びる頃には交換時期ですので、使い捨てることが最も鋸の良い状態を保つ方法です。
最後に
最近では手ノコの技術は、あまり必要ないと感じることも多いですが、大工を目指す方にはぜひ修得してほしい道具です。
手ノコが下手な人は、丸ノコの扱いも上手くありません。
大工が困ったときに頼れるのはこういう地道な基礎技術だと思います。