杉や桧(ヒノキ)と日本文化【国産無垢材】化粧木材としての価値
今回は国産無垢材である杉や桧(桧)の化粧用木材としての価値や決まりについてまとめました。
杉やヒノキは建築のために林業で植林して使用している木材で古くから日本独自の価値観と文化が存在します。
これから自宅建築に無垢材の利用を考えている方も、杉やヒノキについて理解が深まると思いますので是非参考にしてみてください。
目次
はじめに
・この記事の目的
・この記事で触れない文化など
・杉とヒノキの化粧材としての価値観
林業で作る価値について
・杉やヒノキの価値について
・林業について
・杉について
・檜(ヒノキ)について
製材所で作る価値について
・製材方向で価値が変わる
・同じ柄の価値
モルダー工場で作る価値について
・モルダー工場での選別
・無垢材商品はかなり品質が違う
材料を生かすも殺すも大工次第
・絶対的なルールについて
・近年の建築と無垢材について
・選び方のコツ
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
はじめに
・この記事の目的
材料の価値観の知識は、技能大会や技能士の試験では扱われませんので、技術に自信のある若い方や、無垢材を扱う工務店が知らないケースも多いように見受けられます。
場合によっては、お金がもらえないほど信用を失う絶対的な決まりもあるので、せっかくの技術が無駄にならないようにまとめてみました。
・この記事で触れない文化など
今回のお話はあくまでも希少価値についてなので、個人的な好みとは異なります。
そして、材料の使い方(和室などでの決まり)は地域や利用方法などで文化が違います。
日本の中でも、全く違う方向で使用することもありますので、施工を行う場合には詳しい方にご確認ください。
・杉とヒノキの化粧材としての価値観
杉やヒノキは、林業から始まり、製材所、モルダー工場、大工と、たくさんの人の手を通りお客さんの元に届きます。
それぞれの職種で、日本文化による選別基準があります。
林業で作る価値について
・杉やヒノキの価値について
木の価値は、見た目が美しいことはもちろん、年輪や色に現れる歳月、希少性を評価します。
結果的に、どれほどの時間や手間をかけて育てられたかという過程が価値を左右することになります。
・林業について
林業は主に建築木材を育てて製材所に供給する職業です。
杉やヒノキは花や野菜と同様の植物なので、苗木から、長い年月(世代を超えて)をかけて価値のある木を育てます。
杉やヒノキの産地について
杉やヒノキは産地によって育ち方や色が違い、価値にも影響します。
強い木とは言えず風や雪で倒れやすい樹種です。
年輪を細く仕上げるためには寒い地域が適していますが、雪が積もる地域では難しいそうです。
杉の赤身は、土の質によって黒くなることもあります。
間伐について
林業では、たくさんの苗木を植えて植林します。
ある程度育った段階で、価値のつきそうな木に目星をつけて日当たりや風当たりを考慮しながら間引きます。
間引くことを間伐と言い、間引かれた木材を間伐材と呼びます。
間伐材は大きな木ではありませんので、特別な価値は尽きませんが節有の板材として、化粧材にも利用されます。
枝打ちについて
林業では不要な枝を適正に処理して、無節と呼ばれる材料を作ります。
枝打ちは、適正な時期に行わないと節が腐り、死節と呼ばれる穴上の節になります。
枝を切ると、外側が成長して節のない材料になりますが、製材などの加工をすることで枝打ちした節が出てくることもあります。
・杉について
杉材には赤身、白身・柾目・木目・色味・年輪・節・目の方向など、様々な木目があります。
杉の価値は、希少価値や美しさによります。
杉の成長過程
杉は、内側が赤身、外側が白身になり、外側から少しずつ成長していきます。
木の成長スピードは年輪に現れ、成長するほど成長スピードは遅くなり、年輪は細かくなります。
成長すると、内側の赤身の面積も大きくなっていきます。
杉の価値について
杉はヒノキに比べ成長が早く、同じ太さであれば年輪は太くなります。
杉も大きなものになると、年輪が細くなり赤身の部分も広くなります。
年輪の細い赤身の部分は大きな杉の中からでも少しだけしか取れない希少な部位になり、その価値は一般的なヒノキの化粧材よりも高くなります。
・檜(ヒノキ)について
檜の特徴
檜は、杉と比べて成長が遅いので美しい年輪が出ます。
色も全体的に落ち着いて上品なので、部分的な化粧価値の差はありません。
檜の節は赤く硬いのでとてもよく目立ち、節の有無が価値に大いに関係します。
檜(桧)の価値について
無節の檜は色にバラツキが少なく加工も行いやすいため、和室などの高級化粧材に広く使用されています。
中でも材と平行に細かい年輪が通っている材料は、価値が高いということになります。
製材所で作る価値について
林業で育てた期は製材所で木材として切り分けられて、材の価値が確定します。
・製材方向で価値が変わる
製材所は木材を丸太で購入しますので、木の中の節や目の方向が分かりません。
製材所は、その木からとれる材の価値が、最大限になるように切り分けます。
当然台無しになることもあり、大きな材ほど良い木材が切り出せる確率が低いことから価値は高くなります。
・同じ柄の価値
木は二つとして同じ柄がありません。
同じ柄がないからこそ、同じ柄(近い柄)は価値があります。
部屋の化粧柱(5本程)の柄を合わせたセットや、化粧垂木を一軒分同じ柄で用意するなど、たくさんの材料から選別することによって新たな価値を見出します。
モルダー工場で作る価値について
製材された板材から無垢の化粧板に加工することを、モルダー加工と言います。
・モルダー工場での選別
無垢の化粧板は、施工後(引き渡し後)も、湿気や日光に触れることで変形します。
変形しない無垢材はありませんが、癖の強い板や新しい板は特に変形を起こしやすく、そのまま加工すると品質の低い商品になります。
モルダー工場ではたくさんの板にわざと変形が起きやすい処理を行い、その上で変形の起きやすい材料を省いて加工を行います。
・無垢材商品はかなり品質が違う
無垢材のモルダーは、品質を求めなければ比較的簡単な作業となり、無垢材の扱いを知らない加工会社も多く存在します。
無垢板の文化は海外にもありますので、日本基準で判断できないのかもしれません。
日本には材の向きの決まりや、上記の価値基準があるため、商品によっては日本基準で施工できないこともあります。
材料を生かすも殺すも大工次第
上記でご紹介した化粧材の価値も、全て取り付けるのは大工です。
・絶対的なルールについて
材料の取り付け向きには絶対的なルールがあります。
木材は表を表面に向けて、葉の向きを上に(本来生えていた方向)に向けます。
これは縁起による決まりです。
お客さんの将来が上に向かって伸びるようにという意味でそちら方向に取り付けます。
取り付ける方向を決めるのは大工なので、逆にすると大工が「お客さんに下に落ちろ」言っているという意味になります。
・近年の建築と無垢材について
無垢材施工の依頼
新建材が主流となっている現代の建築でも、無垢材は海外の樹種も含めて人気があります。
もちろん、海外の樹種は土足文化からの輸入なので、今回のお話は当てはまりませんが、杉やヒノキのフロアーも海外樹種と同じ扱いをすることがあります。
大工技術と文化について
現代でも杉やヒノキを頻繁に使う地方での建築では、上記の文化は当たり前に根付いています。
しかし、杉や桧に触れる機会のない若い大工さんなどが、技能士や技能大会、削ろう会などで腕を磨いても、上記の文化は伝わりません。
せっかく磨いた技術が正しく生かせるように、頑張っている大工さんほど知ってほしいと思います。
・選び方のコツ
お客さんは無垢材が良いと考えて無垢材を選びます。
現代ではお客さんや現場監督は無垢材の価値について知らないことがほとんどなので、専門家として林業や製材所が育てた木を最大限活かしてあげましょう。
色合わせを行う
新建材のフローリングでも説明書に色合わせを行ってくださいと書いてあることがほとんどです。
杉板は特に色の違いが大きいので、しっかり色合わせを行わないと安っぽくなります。
横板は明るい色を上に持ってくると比較的落ち着きますので、おススメです。
発注時にチェック
会社の指定する材料であれば仕方がないのですが、選べるなら発注時点で商品の束を選びましょう。
上記の通り、モルダー工場で品質がかなり違うので、施工性にも影響しますが色を判断できる知識があるのは大工だけなので、選んであげましょう。
最後に
どうでしたか?
大工は組み立て責任ももちろんですが、材料を生かすも殺すも大工次第という重要な責任もあります。
価値観を知っておけば、お客さんに「良い材料が混ざっていたので、玄関に良いの選んでかっこよくしておきましたよ」などの会話から信頼を得ることもあると思います。
新建材が主流の今だからこそ、材料の価値を知る大工を目指してください。