鉋(かんな)の研ぎ方【プロ用】鏡面仕上げを大工が解説
今回紹介する鉋の研ぎ方は作成者が鉋を使用する用途に合わせて試行錯誤して見つけた方法です。
少しマニアックな研ぎ方なので、鉋の使用環境などを考慮してマッチしそうであれば参考にしてください。
目次
研ぎ方の特徴について
・鉋の使用環境
・研ぎ方の特徴
・研ぎ方の概要
シャプトンを選ぶ理由(各砥石の特徴)
・キング砥石とシャプトン砥石の違い
・天然砥石について
平面研ぎの方法
・裏を研ぐコツ
・表を研ぐ時に大切なのは重心
・砥石の使い方(研ぎ方)
・研ぎ上げについて
鉋研ぎの流れ
・金剛荒砥石(#250)
・キング中砥石(#1000)
・シャプトングリーン(#2000)
・シャプトンエンジ(#5000)
・シャプトンクリーム(#12000)
・シャプトンムラサキ(#30000)
・錆止め(シリコンスプレー)
研ぎ方の補足
・横研ぎの特徴について
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
実際に鉋を研いでいる動画です。
姿勢や流れはこちらでご確認ください。
研ぎ方の特徴について
・鉋の使用環境について
この研ぎ方は現場や技能大会(技能試験)などで鉋を研げない状況で、複数の鉋を用意するための方法です。
比較的研ぎ時間がかかり、砥石もたくさん使用するので研ぎながら仕上げる環境では不向きな研ぎ方です。
・研ぎ方の特徴
1・完全に研ぎ直す
使用環境上、切れなくなるまで使用することも多く、頻繁に研ぐ場合と比べて刃が摩耗した状態になります。
摩耗している刃は、荒砥石などで研ぎ直しを行う必要があり、研ぎ直した荒砥ぎの状態から可能な限り早く研ぎ上げる方法です。
2・正確な形を作ること
複数の鉋を使用する場合でも、刃の裏表を完全な平面に研ぎ上げることができる方法です。
技能大会用の鉋を用意する場合など、失敗できない状況でも、確実に同じ形で研ぐことができます。
3・確実に切れること
確実に切れる状態にできる研ぎ方でもあります。
完全な平面に研げるので、硬くて減らない鏡面用の仕上げ砥石でも、効率良く研ぎ上げることができ、鏡面同士の刃先は確実な切れ味が担保されます。
・研ぎ方の概要
目標とする切れ味
この表現が正しいのかは分からないのですが、剃刀(カミソリ)のように剃れる状態です。
※剃刀の角度は28度、鉋は約33度なので、これで判断しています。
所要時間
一枚研ぐのに20分ほどかかります。
20分が早いか遅いかわかりませんが、現場で研ぐには時間がかかり過ぎると思っています。
使用する砥石
鑿研ぎには、キングの砥石を使用していましたが、鉋の研ぎではシャプトンの砥石を主に使用して研いでいます。
シャプトンを選ぶ理由(各砥石の特徴)
僕がずっと言いたかったマニアックな話なのですが、人工砥石はメーカーでかなり使い心地が違います。
前回ご紹介させてもらいましたが、鑿研ぎや包丁研ぎにはキング砥石が最適だと思います。
僕は鉋研ぎにはシャプトン砥石を使っていまして、理由などを解説します。
・キング砥石とシャプトン砥石の違い
減るタイミング(研垢)
・キング砥石の場合
キング砥石は、研垢によって研ぐことができる砥石です。
研垢が出ないと刃物も砥石も減りません。
研垢で研ぐ砥石で研ぐ場合、刃物が研ぎあがった時点で平面が狂っています。
いくつも砥石を使用する場合には平面が崩さないように研ぐのがポイントです。
・シャプトン砥石の場合
シャプトン砥石は、研垢がない状態から研ぎへらすことができます。
研垢を出すと、逆に目詰まりが起きる特徴があります。
面直し直後(完全に砥石表面が平面な状態)から研げることで、刃物の平面状態を崩すことなく番手を上げることができ、複数の砥石を使用する場合でもスムーズに研ぎ進めることができます。
私が面直しに使用しているダイヤモンド砥石です。
研ぎ感(ぬめり感)
・キング砥石の場合
キング砥石の研ぎ感は、砥石の上でサラサラの研垢を練るイメージです。
キング砥石は平面研ぎには向いていません。
平面研ぎをすると、刃物が表面張力で立つと言いますが、キング砥石のサラサラの研垢は、引っかかりやすいので、立つどころではなく刃物が動かなくなってしまいます。
・シャプトン砥石の場合
シャプトン砥石の研ぎ感は、ぬめりのあるヤスリのようなイメージです。
砥石に張りつきながらもヌルヌルと動いてくれるので、平面研ぎに向いています。
面直し直後からしっかり減るので、すぐに研垢が出ますが、シャプトン砥石の場合も研垢の目詰まりは引っかかりますので、頻繁に面直しを行って研垢がない状態で研ぎます。
シリーズ(システム砥石)
シャプトン砥石には細かく番手が設定されています。
サンドペーパーと同じで、少しずつ細かい番手に上げて研ぐほうが、効率的に研ぐことができます。
シャプトン砥石の場合、30000番まで用意されているので、鏡面状態まで順番に研ぎ進めることができることも大きな特徴です。
※僕の場合、1000番に関しては値段が安いキング砥石(赤砥石)を使用しています。
・天然砥石について
天然砥石の間違った知識
天然砥石を使う方は「天然砥石の曇った仕上りの方が切れる」と信じている方がいます。
物理的に研ぎ上げると鏡面になりますので、完全な間違いです。
※もちろん、その方の研ぎ方や、砥石・刃物の相性で天然砥石の方が切れる場合はあると思います。
天然砥石は切れるから高いわけではなく、希少価値が高いから値段が高いのです。
※切れ味を目的にするのであれば人工砥石をおススメします。
天然砥石の番手
一般的な天然砥石は5000番くらい
高級天然砥石で8000番くらいです。
天然砥石は結構粒子が荒いものなのです。
いろいろな砥石で研いでいると、研ぎ上げた刃を見れば、砥石の番手(細かさ)を把握できるようになります。
※2000番くらいの天然砥石を、仕上げ砥石だと信じて使用している大工さんもいます。
人工砥石と天然砥石の違い
人工砥石の研ぎ上がりの見た目は光沢(キラーンとしている)がある割りに切れ味が良くないことがあります。
人工砥石には研磨剤で磨くような効果もあり、大きな山の先だけ減らし、谷間の傷が残っている状態になり、見た目では研げたように見えて研げていない状態になります。
※天然砥石は粒子が荒いので、このようなことが起きにくいとも言えます。
平面研ぎの方法
※刃の形については鉋の調整の記事をご覧ください。
・裏を研ぐコツ
裏は平面に研ぎますが、鑿と違い、刃先部分が平面になっていれば鉋として使えます。
裏研ぎを行うと、刃の根元側に圧力がかかりやすいので、刃先が減るように集中して研ぎます。
複数の砥石を使用して裏を研ぐ場合、番手を上げるごとに刃を砥石に深くかけるようにします。
裏が刃から根元にかけて若干でも凹んでいる場合には、仕上げを深くかけることで刃先に仕上げが当たりやすくなります。
※柔らかい砥石では、刃先が減り過ぎることがあるので注意してください。
・表を研ぐ時に大切なのは重心
鉋研ぎは、鑿のようにストロークで研ぐわけではありません。
砥石に刃を当てた状態で、しのぎの刃先部分に重心を維持できるように両手で固めます。
重心さえ固まっていれば、砥石の上でスライドすれば研げますので、実は慣れれば誰でも出来る技です。
感覚が分かりにくい場合は、片手で研いでみると、重心の感覚が感じやすくなります。
刃先が研げる重心を支える感覚を掴むことができれば、必ず平面に研げます。
・砥石の使い方(研ぎ方)
寸八鉋を研ぐ場合は砥石を前後に分けて、半分ずつ研ぎます。
刃を横にして前後にスライドさせて、根元で砥石を慣らして刃先を研ぐ感覚で左から右まで研ぎます。
面直しした状態から一度スライドさせたら面直しを行います。
※研垢が出た後は砥石の面が狂いますので、面直しを行わずに研ぐと刃の平面が狂います。
・研ぎ上げについて
研ぎ上げとは
砥石にはそれぞれ粒子のサイズが違います。
力を入れて研ぐと、砥石の粒子サイズの研垢で刃物を減らすので、刃物の表面も粒子サイズの仕上がりになります。
研ぎ上げる際に粒子をすり潰して、砥石本来の粒子以上に研ぎ上げる技があります。
研垢が出た時点で力を抜いて、砥石を減らさないように研垢だけで刃物を研ぐイメージです。
天然砥石は特に粒子を潰しやすく、削ろう会などで時間をかけて研いでいるのはこのためです。
研ぎ上げのデメリット
「研ぎ上げ」は最終の仕上げ研ぎにのみ行うもので、いくつも砥石を使用して研ぐ場合では、途中の砥石で行ってはいけません。
研ぎ上げは、長く研ぎ続ける事によって砥石の表面が減ります。
加えて、力を抜いて研ぐことで刃物の平面が崩れますので、砥石の番手を上げたときに研げない状態になります。
鉋研ぎの流れ
・金剛荒砥石(#250)
大工刃物の形作りに適した使いやすい砥石です。
鉋のしのぎの面積は鑿の5倍ほどなので赤砥石(1000番)で研いでいては時間がかかり過ぎてしまいます。
荒砥石はとても良く減るので便利ですが、形を作りながら研ぐには非常に難しい砥石です。
刃先を減らすように力をかけて、しっかりと刃返りが出るまで研ぎ減らします。
砥石の面も狂いやすく、刃の形も崩れやすいので慎重に優しく研いでいきます。
荒砥石や中砥石にはヌメリがないので、完全に重心を頼りに形を作ります。
僕の中では、荒砥石で研ぐことが、鉋研ぎの中で最も難しい技だと感じています。
・キング中砥石(#1000)
キングデラックス ( 粒度:#1000 中仕上げ用)
たくさんの大工が愛用しているスタンダードな中仕上げ砥石です。
刃先に集中して1000番の面になるまで慣らします。
刃先部分に面が出来ないと後でいくら研いでも研ぎ上がりません。
調子が悪い場合には、一つ戻って(荒砥石)研ぎ直します。
※鉋研ぎでは不純物混入に注意
鉋研ぎでは、研ぐ砥石の粒子以外の粒子は洗い流します。
面直しごとに散水機で砥石、刃物、手をしっかりと洗って研ぎます。
・シャプトングリーン(#2000)
厚み24㎜の台付きタイプ。
裏出し(貼裏の研ぎ直し)に適した砥石です。
荒砥石と、中仕上げ砥石は、ブロックで面直しを行っています。
シャプトン砥石は全て、ダイヤモンド砥石(150番)で面直しを行いますので、グリーンの面に合わせて形を整えれば、グリーン以降に研ぐ砥石と形が一致することになります。
※ダイヤモンド砥石での面直し
ダイヤモンド砥石での面直しは、力を入れて擦ると砥石の形が崩れることがありますので、ダイヤモンド砥石の面通りになるよう丁寧に直します。
ダイヤモンド砥石には、購入時から若干の反っているものがあり、面直しにちょうどいい形の面(若干盛り上がった形)を選んで使用します。
・シャプトンエンジ(#5000)
鉋研ぎに適した砥石ですが鑿研ぎには不向きです。
エンジもグリーンと同じ要領で研ぎます。
※角(耳)処理について
平面研ぎでは、刃の際(耳)に角が立ってしまうので、アール面処理を行います。
そのまま砥石で角を研いでも処理できますが、専用の砥石を作ると非常に簡単に処理できるのでおススメです。
※裏研ぎ(エンジから)
裏表交互に研ぎ、刃返りを落とし、裏に傷などがないかを確認します。
「研ぎ上げ」は行いませんが、刃返りを落とすので、この時点で研ぎ上がっている状態になります。
※刃返りも金属なので、これ以降の研ぎ上げに混入すると刃に傷がつきます。
・シャプトンクリーム(#12000)
非常に硬く粒子の細かい砥石で鉋の仕上げにも十分に使えます。
シャプトンムラサキは高価なのでこちらで仕上げることをおススメします。
クリームもグリーン、エンジと同じ要領で研ぎます
クリームもかなり硬い砥石なので、正確に面が出来ていないと研げません。
しっかりと刃先に集中して12000番の表面になるように研ぎます。
・シャプトンムラサキ(#30000)
シャプトン 刃の黒幕 ムラサキ 鏡面仕上砥 #30000
世界で最も粒子の細かい人工砥石です。
※説明書に「国外持ち出し禁止」と書かれています。
一度クリームと同じように研いで、30000番の平面を作ります。
面直しを行い「研ぎ上げ」を行います。
※研ぎ上げ
ムラサキが最後の砥石なので、研垢を出して研ぎ上げていきます。
ムラサキは非常に硬い砥石なのでグリーンのように研垢が詰まって引っかかることはありません。
力を抜いて研垢をスリ潰し、裏表共に刃先に集中して仕上げていきます。
納得いくまで研げたら研ぎ上がりです。
・錆止め(シリコンスプレー)
錆止めに塗る油は錆びなければ種類は問いません。
作成者はシリコン系油を使用しています。
刃先はすぐに錆びますので、油を吹いて錆止めを行います
たくさん塗ると、次研ぐ時にヌルヌルになりますので少しで大丈夫です。
研ぎ方の補足
・横研ぎの特徴について
職業訓練校などでも基本は縦研ぎだと教えるそうなので、横研ぎは一般的ではありません。
横研ぎのメリット
平面研ぎが行いやすい。
裏を横に研ぐのはこのためだと思います。
横研ぎのデメリット
研筋(研ぎ傷)が裏表共に刃先と平行になるので、刃先の強度が壊れやすい形になると言われています。
横研ぎの場合は特に、研筋を無くすために鏡面に研ぎ上げる必要があると言えます。
実際30000番の横研ぎで切れ味に困ったことはありませんが、気になれば縦研ぎも試してみる価値はあると思います。
最後に
いかがでしたか?
今回はかなりマニアックな内容になってしまってすみません。
普段の記事は、出来るだけ基本となる方法をご紹介しているのですが、今回の研ぎ方については基本とは言えない研ぎ方です。
賛否ある方法なので、親方さんに怒られることもあるかもしれません。
今後皆さんが、鉋を修得するための一つの参考にでもしてもらえたらと思います。