【マンション&連棟リフォーム工事】管理業務主任者の大工が解説
マンションやテラスハウス(連棟建物)は住宅であり共有物です。
大工さんの中にはマンションの工事なんてしないよと思う方も多いと思いますが、連棟の建物の工事に関わったことのある大工さんは多いと思います。
法的には連棟の建物もマンションとして扱われ、同様の制限を受けます。
今回は、連棟の解体や外壁工事について、室内の水回りを含む間取り変更の可否、店舗やゲストハウスへの用途変更などの工事を行う方法や、工事に関わる管理組合と管理会社の違い、管理人さんとの関わり方など、謎の多いマンション運営の仕組みについてまとめてみました。
目次
マンションの決まりが複雑な理由
・共有物とは
・区分所有法とは
マンションの定義
・区分所有法上のマンション
・アパートとの違い
・区分所有法の適用範囲
マンションの構造について
・建築構造について
・連棟建物(低層マンション)の種類
マンション管理組合について
・マンション管理組合に関する用語
・マンション管理組合の仕組み
・マンション管理会社について
専有部分と共用部分の具体的な箇所
・専有部分の箇所
・共用部分の箇所
・専有部分内の配管などの設備
マンション工事について
・連棟リフォームの注意点
・連棟の切り離しや解体について
・室内の水回りを含む間取り変更の可否
・店舗やゲストハウスなどへの用途変更
工事の流れについて
・規約や仕様細則の確認
・工事の申請について
・規約に従って工事を行う
記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士、管理業務主任者など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
マンションの決まりが複雑な理由
マンションの決まり(仕組み)はたくさんの法律が関わることによって複雑になっています。
ここでは民法と区分所有法の違いについてご紹介します。
・共有物とは
マンションは建物と土地を共有しています。
共有とは、一つのものを二人以上の方が所有する関係です。
共有することで一人では手に入りにくいものが手に入るメリットがありますが、共有者同士での揉め事が起きた場合に簡単に分割できないというデメリットもあります。
住宅以外の共有物には民法が適用され、住宅(建築物)には区分所有法が適用されます。
・区分所有法とは
民法上の共有の規定は安心して暮らしていくためには不適切な規定も含まれており、住宅を共有するための区分所有法という別の法律が適用されます。
財産としての影響度が高い
マンションは所有する個人にとって大きな財産です。
共有者の揉め事で簡単に財産を失うようなことが無いように、長期的な財産価値を維持できるような規定となっています。
居住環境に影響する
住宅には良好な居住環境が需要になるので、区分所有法ではマンション内で共有する方同士がお互いに居住環境を維持するためのルールを設ける仕組みが設定されています。
マンションの定義
・区分所有法上のマンション
区分所有法でマンションとして扱われる建築物は、一般的に認知されているRC造(鉄筋コンクリート造)の高層建物だけではありません。
マンションとは構造上明確に区画され、二人以上の共有者で共有する建物です。
※最小で二個一(ニコイチ)の建物でもマンションになることがあります。
・アパートとの違い
アパートのように一人の大家さんが所有権を持っている状態の建物はマンションではありません。
・区分所有法の適用範囲
区分所有法はマンションであれば強制的に適用されます。
※住居として安心して暮らすためにマンションを持つ全ての方に適用されます。
マンションの構造について
・建築構造について
マンションに最も多く用いられる構造はRC造(鉄筋コンクリート造)です。
高層建築物に必要な防火性や耐震性に優れています。
RC造は他の構造と比べて高価ですが、共有することで建築費を分散しています。
木造や鉄骨造マンションの建築は現在では滅多に見ません。
・連棟建物(低層マンション)の種類
連棟建物(低層マンション)には土地の所有方法で二つの種類に分けられます。
タウンハウス
土地が共有される形式の低層マンション(一階に玄関が並ぶ連棟)がタウンハウスと呼ばれます。
※区分所有法上の名称ではありません。
テラスハウス(土地分有型区分所有建物)
土地を分けて(分筆登記)所有しているタイプの低層マンションをテラスハウスと呼びます。
土地は自由に利用できるため戸建てに近い感覚で住まれています。
※規約でテラスハウスの土地の扱いを制限することはできません。
マンション管理組合について
ここからは区分所有法で規定されるマンション管理組合についてご紹介します。
・マンション管理組合とは
マンション管理組合
マンションでは区分所有法上当然にマンション管理組合が成立し、マンションを所有すると強制的にそのマンション管理組合の組合員になります。
マンション管理組合法人
マンション管理組合は法人格を取得して法人となることができます。
・マンション管理組合に関する用語
マンション管理組合の用語をまとめました。
区分所有者
マンションの一室を所有している人を区分所有者と言います。
管理者(理事長)
マンション管理組合員(区分所有者)の代表を管理者と言います。
管理者は管理組合法人では理事長と名称が変わります。
集会
マンション管理組合では、年に一度集会を開いてマンション管理の運営を行います。
マンション管理規約
マンション管理規約はマンション管理組合内のルールです。
区分所有法の強行規定を除きマンションごとに自由に設定できます。
管理費や修繕積立金
区分所有者から集金するマンション管理組合の運営費を管理費、マンションの修繕のための積立金を修繕積立金と呼びます。
二つの会計は別々に管理します。
専有部分
専有部分とは共用部分以外の部分で、マンションを所有する目的となる部分です。
※工事可能な部分です。
共用部分
区分所有者全体で共有している部分です。
バルコニーも共用部分ですが、特定の区分所有者のみが利用できる権利を設定しています。
敷地
マンションが立っている土地を敷地と言います。
・マンション管理組合の仕組み
マンション管理組合の運営は国が行う政治によく似ています。
・マンション管理組合→国
・マンション→土地(国土)
・区分所有者→国民
・管理規約→法律
・集会→国会
・管理者→総理大臣
・管理費や修繕積立金→税金
・共用部分→インフラ
・専有部分→個人所有の土地
このように考えてもらうとわかりやすいと思います。
・マンション管理会社について
マンション管理会社とは
管理会社は管理組合から運営や会計を委託される会社です。
※清掃や防犯業務も引き受ける場合があります。
管理人とは
管理人とは管理会社から派遣された管理事務所の常駐員です。
専有部分と共用部分の具体的な箇所
マンション工事で最も覚えておかなければならないのが工事の可能箇所(専有部分)と工事不可箇所(共用部分)の違いです。
・専有部分の箇所
専有部分は界壁(躯体)で囲まれた壁内の空間です。
マンションリフォームで工事可能な箇所です。
※建物の構造上、不規則に設定される場合があるので規約の確認が必要です。
・共用部分の箇所
共用部分は構造躯体や外壁、廊下、エレベーター・エントランスホールなどです。
サッシやバルコニーも共用部分です。
・専有部分内の配管などの設備
給排水設備や電気、ガス、光、消防設備などマンション管理組合で引き込んだ設備は共用部分です。
共用設備は専有部分内でも共用部分になり、枝管から専有部分となります。
マンション工事について
・連棟リフォームの注意点
連棟の規約や管理組合について
連棟は管理組合や規約が設定されていない場合があります。
しかし上記したように管理組合は法律上当然に発生するので、他の区分所有者の承諾なしに工事を行うことは危険です。
外壁や屋根工事
連棟の場合、部分的な外壁工事が行われていることもあります。
区分所有者同士で納得していれば問題ありませんが、雨漏りなど構造上リスクが高くなります。
・連棟の切り離しや解体について
連棟建物(マンション)の切り離しや解体はいろいろな問題があります。
全員の承諾が必要
区分所有関係の廃止(取り壊しや切り離し)などの大きな変更は区分所有者全員の承諾が必要です。
木造連棟の柱の取り換えも建築構造の変更に当たるため承諾が必要です。
※建て替えについては区分所有者の4/5の承諾が必要
建築基準法上の切り離し
建築の考え方では、部分解体(切り離し)は残った部分を建築したことになります。
残った部分で耐震強度などが現在の基準に適合していなければ違法となります。
・室内の水回りを含む間取り変更の可否
共用配管の取り換えや清掃について
共用配管はマンション管理組合での定期的な取り換えや清掃を行う部分です。
作業の邪魔になるような造作などを作りつけてはいけません。
専有排水の水漏れについて
直下の階に人が住むマンションでは水漏れが大問題になります。
区分所有者同士の紛争の原因になりうるので専有部分での設備工事は注意が必要です。
※コンクリートは割れ目などから水が漏れます。
・店舗やゲストハウスなどへの用途変更
マンション管理規約ではマンションの使用用途についても定めることができるため、住宅以外に用途変更できない(工事ができても使用できない)場合があります。
※区分所有者が規約を守らなかった場合は退去を求められます。
工事の流れについて
・規約や仕様細則の確認
マンション管理規約の内容はマンションごとに違うので、工事を行う場合には工事内容が可能なのか確認が必要です。
一般的に工事内容の指定は規約と共に添えられる仕様細則に定められています。
※規約は管理事務所に保管されているか管理者の方が保管しています。
・工事の申請について
工事開始前に規約に従って工事の申請を行います。
申請は依頼者である区分所有者から管理者宛てに行います。
※管理会社が申請受付業務も行っている場合もあります。
・規約に従って工事を行う
管理組合によっては工事内容や使用する建材などの事前検査や確認検査を受ける必要がある場合もあります。
駐車場や施工時間なども規約の定めに従って行います。
最後に
いかがでしたか?
マンションも住宅なのでリフォームなどでも大工さんの技術が求められます。
しかしマンションは共有物であることもあり工事会社への損害賠償請求リスクが高い工事です。
仕組みや法律についても大まかに把握することでそのようなリスクも減らすことができると思って作りました。