【2024】第62回技能五輪全国大会「建築大工」課題解読と考察(詳細図データ配布中)
技能五輪全国大会は、23歳以下の技能者たちがその技術力を競い合う最高峰の舞台です。
その中でも、建築大工職種は特に高い注目を集める種目で、建物の屋根部分の原理模型を作成する課題で競います。
今年は第62回大会として、2024年11月22日~25日の日程で愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)ほか数会場で開催されます。
本選に挑む選手たちは、木材の特性を深く理解し、正確な木工技術と伝統的な算術を用いて、精度の高い作品を仕上げることを目指します。
この記事では、建築大工職種課題について詳しくご紹介していきます。
目次
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第62回技能五輪建築大工課題の詳細と特徴
2024年度技能五輪建築大工課題の概要
2024年度の建築大工課題は、桁、はり、柱の基本構造部に棟木や隅木を組み込み、垂木やつなぎを取り付けた「突き出し屋根付き小屋組み」であり、当日公表として一部変更する部分があるという特殊性のある課題となっています。
作業内容は、現寸図作製→部材の木削り→墨付け→刻み加工・仕上げ→組立てとなっており、大工に必要な技術を総合的に競う内容となっています。
建築大工の課題については協会のホームページで公開されています。
課題公開ページ
・課題の形状について
競技課題図では平面・立面形式で全体的な収まりが示され「部材仕上り断面寸法表」で部材断面寸法が記されています。
課題を作成するためには、これらの情報からそれぞれの部材の形状を求めます。
しかし斜めに収まる部材が複雑に絡む本課題の部材形状は平面・立面図などの2次元図面から直接把握することはできません。
そこで「規矩術」という日本の大工に伝わる計算術を用いて部材の詳細な長さや勾配を算出します。
・課題のルールについて
ルールは課題文に示されています。
ここでは予選(二級技能士試験)と異なるルールをピックアップしたのでご紹介します。
当日の一部変更について
この課題の形状は本選当日に一部変更されます。
変更箇所は不明ですが、作成者なりに考察しましたので後述します。
変更箇所の考察
材料の指定
五輪の本選では米栂(べいとが)を使用すると記されています。
この樹種の特徴は、木目はおとなしく明るい色見で、硬さは固く、粘りが少ない。
鉋かけ作業では逆目を防ぐ難易度が高く、刻み作業では鑿切れが悪い(つぶれやすい)印象があります。
組み立て工具の指定
組み立て時に使用できる工具が指定されており、鑿、鉋、鋸など加工が可能な工具は使用できないと定められています。
加工時の組み合わせ方法の指定
先で述べたように、組み立て時に加工できないため刻み作業時に仮組みをしたいところですが、刻み作業時の部材組み合わせに関して定めがあります。
2部材組み合わせは可能だが、組み合わせた状態での墨付けや加工は禁止。
また3部材以上の組み合わせは禁止となっています。
加工床へのビス打ちの禁止
木ごしらえ作業で有効なコツであった削り台を加工床に固定する設置方法は禁止されています。
・ルールでは示されていない重要なポイント
技能競技の採点では部材同士の突合せの精度より、仕上がりの外寸法が重要となります。
仕上がり外寸法が、課題図に示されている寸法から少しでもズレると大きく減点となります。
練習時からこのポイントを気にしながら取り組むようにしてください。
課題詳細データの無料配布について
作成者が独自算出した本課題の部材詳細CADデータ(jww,dxf)を無料配布しています。
データ内は、課題図・規矩模型図・現寸算出図・展開図が含まれています。
勾配や寸法を計測、練習用書面への印刷などご自由にご利用ください。
必要な方はLINEのほうからメッセージください。
大工マニュアルへのLINEメッセージはこちらから
上位入賞するための練習法について
技能五輪上位入賞するための練習方法についてご紹介します。
・二級課題の4倍の練習量
二級課題と比べて課題のボリュームは作業時間・作業量・部材量を比較して4倍くらいです。
課題練習には2か月ほどかかるかなという印象です。
・数字200桁の暗記
この課題は左右対称などの同勾配・同寸法の部材がほとんどありません。
本選の作図や墨付けで勾配や寸法を正確に書き出すためにはそれらのすべてを数字で暗記する必要があります。
勾配は〇寸勾配というa/100比率で表すため0.1㎜単位までの3桁の数字で暗記することができます。
長さは4桁数字の暗記となり、現寸図で算出できる部分を除いて200桁ほどの暗記が必要となるはずです。
一部変更箇所の考察と対応策
作成者が一部変更の箇所について五輪出場経験をもとに考察しました。
・一部変更は⑪~⑭垂木の起点変更
一部変更の箇所として考えられるのは、選手が変更に対応可能、かつ規矩術の熟練度を判断できる箇所であるはずです。
仮に⑥棟木の高さが変更されると、桁と梁以外のすべての部材が課題図と変わることとなり、選手誰一人として対応できず競技になりません。
また、⑯~㉑の突き出し屋根にかかる部材を変更した場合も、6部材全てに影響します。
これらの現寸図での算出は、算出線が重なりすぎるため現実的に不可能です。
消去法で、上記の条件を満たす個所は⑪~⑭の上下どちらかの起点が移動することに絞られます。
※作成者は⑥番棟木先の伸縮が濃厚だと考えます。
こちらの垂木の算出は現寸図で求めることが可能で、作図算出スペースにも余裕があります。
・対応策について
一部変更が、こちらの箇所であった場合の対応策をご紹介します。
⑬⑭垂木の側面現寸部分に、展開図を正規算出する練習を行います。
現寸図で長さや勾配を求めると暗記が必要な数字が減るため、この箇所が変更しなかった場合でも負担がありません。
・もしも別箇所が変更された場合
前記した通り、棟木&隅木や突き出し屋根に絡む部材の変更は対応できる選手がいないと思います。
そんな課題は成り立たないのですが、もしそうなった場合には無理に時間をかけて算出するより、諦めて変更前状態で作るほうが、大きな組違いが起きない分、低リスクかなと考えます。
最後に
いかがでしたでしょうか?
技能五輪は23歳までしか出場できない貴重な機会です。
また、選手全員が練習期間を2か月に制限され、フェアな条件で勝負できる腕試しの機会です。
選手の皆さん、日本一目指してがんばってください!
応援しております!