【大工建前】2人だけで組み立てる方法|独立前に絶対に修得すべきスキル
みなさんは建前の組み立て作業で活躍されているでしょうか?
組み立て作業は、高所作業、材料が重い、不安定、大工さんがピリピリしているなど、たくさんのことに気を付けるので、補助を行っていてもなかなかポイントを把握することが難しい作業です。
実は組み立て作業も他の作業と同様で、2人(最少人数)で行うと簡単にポイントを理解できます。
ポイントを理解できると建て方全体が把握できるため、的確な補助や指示を行うことができるようになります。
ということで、今回は最少人数での組み立てを想定して、順を追いながら組み立てのポイントをご紹介していきます。
目次
修得効率が高い少人数の組み立て
・修得効率が高い
・組み立ては1人ではできない
・柱と桁の組み立ての2人の役割
桁のカマ継ぎの組み立て
・カマ継ぎ手の基本
・クレーンを使用する場合
・脚立で手上げする場合
通し柱の組み立て
・組み立ての段取り
・組み立て方法
・土台へのホゾの下げ方(入れ方)
・仮固定について
両方アリ仕口の桁や梁の組み立て
・手上げ(人力で桁上に運ぶ)の方法
・アリ仕口の組み立て方
・1人で手上げする方法
・硬い(きつい)仕口の対処法
組み立てのコツ(番外編)
・吊る順番について
・いろいろな工夫(昔ながらの方法)
・組み立ては勢いも必要
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
組み立てスキルが大工に重要な理由
・建て方作業は初めての大工さんと知り合う機会になります。
・大工さんは実力社会なので年齢は関係ありません。
・プレカットの組み立て作業は全国共通です。
共通のスキルは比べやすいため、初めて会った大工さんとの関係に大きく影響します。
建て方作業は大工をする上でとても重要なのでぜひ修得してください。
修得効率が高い少人数の組み立て
このページでは、最少人数(2人)での組み立て作業をご紹介します。
まずは2人作業で解説を行う理由について解説します。
・修得効率が高い
少人数での作業はどんな作業でも修得効率がとても高く、組み立て作業も例外ではありません。
何が難しいかわかる
作業を修得するためには作業のどこが難しいのかを把握する必要があります。
少人数で行うことで初めて問題に気づくことができます。
自分で工夫する
問題が見つかった場合には自分で考えて工夫して解決しなければいけません。
そこで出た結果は失敗であれ、成功であれ、全て良質な経験になります。
人の方法を真似する
自分でやり方がわかったら他の大工さんのやり方との違いが分かるようになります。
建て方作業はいろいろな大工さんと一緒に行うため、すぐに真似をすることができるようにます。
・組み立ては1人ではできない
組み立て作業は一人ではできません。
その理由について柱と桁の組み立て作業を例に解説します。
桁の回転(左右回転)
クレーンで桁を吊る場合には正しい位置に吊り込まれていないと柱に合わせることができません。
桁の倒れ(天地回転)
柱のホゾ先に桁を乗せている状況では桁が不安定でどちらかに倒れる状態です。
倒れると桁が落下しますので、ホゾに刺さるまでは回転を抑えておく必要があります。
※クレーン(クランプ)で吊り込む場合には倒れは発生しません。
桁は隅から入れる
柱の上に桁を組む場合には、先に立てた柱のホゾ先に桁を乗せてホゾ穴を合わせます。
柱が複数ある場合、ホゾ穴はどちらか片方からしか入れることができません。
そのためには桁の逆方向を持ち上げて斜め状態にする必要があります。
隅のホゾが入っても抜ける可能性
桁を斜め状態にして桁隅位置のホゾを先に入れた状態でも、持ち上げていた桁を下すと桁中心のホゾが突っ張ることで元の刺さっていない状態に戻ってしまいます。
・柱と桁の組み立ての2人の役割
柱と桁の組み立て作業を行う場合の2人の役割を整理します。
2人は桁の両端で作業を行います。
持ち上げ役
ホゾ先に乗せた桁を持ち上げる役です。
持ち上げると同時に桁が倒れないように支える必要があります。
叩き込み役
持ち上げてもらった桁をホゾ先に差し込む役です。
墨の柱が刺さると次の柱のホゾを差します。
桁を叩き下げながら持ち上げ役が手を放しても戻らない状態(ある程度のホゾを差す)までホゾを入れます。
カケヤなど建て方で使用する道具の使い方についてまとめたページはこちら
桁のカマ継ぎの組み立て
2人での作業で柱と桁を組み立てた状態で、桁と桁の継ぎ手の組み立てについてご紹介します。
・カマ継ぎ手の基本
カマ継仕口について
桁と柱は先ほどと同様全てホゾ仕口です。
プレカットの桁継ぎ手にはカマ継ぎが用いられます。
カマ継にはオスとメスがありメスの後にオスを上から叩き込みます。
継ぎ手から入れる
桁は継ぎ手(カマのオス)がある場合、継ぎ手から組みます。
柱のホゾよりカマが深いため、カマを引っかけた時点では逆方向が下がった状態になります。
逆方向が下がった状態でカマを下げても、カマのアゴ(仕口の段違い部分)が当たって入りません。
逆は支える
ここでも先ほどのように2人で手分けして、カマを入れる役と逆を持ち上げる役に分かれます。
カマのアゴが入った時点で柱ホゾを入れます。
・クレーンを使用する場合
クレーンを利用する場合も理屈は同じです。
クレーンを利用する場合には継ぎ手側の大工さんは桁上に登っていることも多いと思います。
吊られてきた桁の継ぎ手を押し下げてかませます。
クレーンの場合にはかませた継ぎ手が外れる可能性があるので手を離さずに押さえておく必要があります。
・脚立で手上げする場合
脚立を使用して組み立てる場合も理屈は同じですが、重たい桁を定位置に運ぶ手順をご紹介します。
脚立を据える位置
2人で手上げする場合には桁の両端を持てる場所に5尺脚立を立てます。
脚立のすえる位置は、重い桁を持ち上げる姿勢を考慮します。
最も持ち上げやすい姿勢は桁を肩に乗せる姿勢で、立ち上がるだけで持ち上げることができます。
桁の納める場所から離れれば離れるほど腕力が必要になります。
脚立を据える場所の足場の良さを確認して、最もいい場所を探します。
桁の運び方
納める桁は一度据えた脚立の天端に乗せます。
そして二人で両方の脚立に上り、タイミングを合わせて納める場所に運びます。
もちろんこのタイミングは非常に不安定となるため、転倒や落下に十分注意します。
また、叩き込むためのカケヤの用意も必要です。
通し柱の組み立て
桁の組み立てと並行して通し柱を組み立てます。
通し柱組み立ての特徴をご紹介します。
・組み立ての段取り
通し柱は桁や梁と比べても長い部材です。
組み立て作業の終盤になると、納めた桁などが邪魔になり建てられなくなる場合があるので組み立てる順番には注意が必要です。
・組み立て方法
通し柱はプレカット軸組で唯一横から組むタイプの仕口です。
そのため通し柱の組み立てタイミングはいろいろなパターンがあり、状況に応じて判断します。
先立てパターン
管柱がない桁が刺さる場合には通し柱を先に立てる必要があります。
また、先行足場がある場合は最も邪魔になる部材である通し柱を先に立てておきます。
後立てパターン
管柱がある桁に刺さる通し柱は、桁の後に組み立てることができます。
立て起こしパターン
通し柱と桁の仕口はボルト固定の仕様です。
クレーンを利用する場合には先にH型に組み立ててから起こす方法もあります。
・土台へのホゾの下げ方(入れ方)
通し柱は長いため上部から叩き込むことができない場合があります。
土台のホゾ穴にホゾ先がかかっている状態で下がらない場合には、通し柱下部側面を金槌で叩いて振動を与えて下げることが一般的です。
それでも入らない場合には先に桁を通し柱に差し込んで桁と一緒に叩き下げます。
そのため通し柱に刺さる桁はわざと浮かせておくという作戦もあります。
・仮固定について
通し柱はボルトで締め込む仕口なので組み立てと同時にボルトを取ります。
両引きボルトについて
通し柱は両方に桁が来る場合があり、その場合には両方の桁から貫通する両引きボルトを使用します。
両引きボルトは「片方だけ締める」ということができないため両方の桁を収めるまでは手で押さえておくか、釘で仮固定を行います。
釘打ちの方法について
通し柱と桁を釘で仮固定する場合にはN90(手打ち)を使用します。
作成者は通し柱から桁のエリを狙って固定しています。
※打ち損ないで抜けると危険なので固定の確認は行ってください。
ボルトの締め付け
方引きホルトはインパクトドライバーで固定できますが、両引きボルトはオフセットしているため眼鏡レンチや建前レンチが必要です。
通し柱がたくさんある場合には締め込んでいると他の部分の仕口が入らない場合があるので緩めることがあります。
緩める場合にも安全のためナットがかかった状態にします。
両方アリ仕口の桁や梁の組み立て
外周部から桁や通し柱を組み立てると、内部は両方がアリ仕口の桁や梁が多くなります。
両方アリ仕口の桁・梁も大きいサイズのものは組み立てにコツが必要になるのでご紹介します。
・手上げ(人力で桁上に運ぶ)の方法
クレーンが来ている建前でも梁は人力で上げる機会も多いのでご紹介します。
片方を桁上に突き上げ
両方があり仕口の桁や梁は一度桁の上にあげる必要があります。
手で上げる場合は片方ずつ上げます。
桁を片方から上げる場合には桁の中心部をもって持ち上げます。
中心を持ち上げた桁は、片方が下がることで片方が上がります。
突き上げた材を落ちないように抑える
片方が桁にかかった状態になると次は逆側を上げるのですが、先に上げた方が桁から外れる可能性があります。
桁上で外れないように持つ場合は、作業者の落下リスクを減らすため、桁同士の摩擦力を利用して押さえます。
逆方向の持ち上げは、桁をかついで脚立を登ります。
持ち上げは力のいる作業のため、抑える担当は材に前後の動きや回転が無いように注意します。
・アリ仕口の組み立て方
納める桁が桁の上に上がったら納める段階です。
この段階はクレーンで吊り込む場合も同様です。
片方のアリ肩をあてる
両方があり仕口の桁は、まず片方のアリ肩をメスのアリ肩にあてます。
あてる高さは5cm程かかる程度。
片方を当てることで逆方向のアリ肩もメスにかけることができます。
先にあてる担当は桁が無駄に下がらないように支える必要があります。
桁上で作業する場合にはカケヤで桁を引っかけて逆方向が平行にかかるまで待ちます。
平行に叩き下げる
両方があり仕口の桁は平行に下げないと入りません。
カケヤで叩き込む場合には両端を同じタイミングで叩きます。
叩き込みの力を増やしたい場合には叩き込む桁の上に乗って体重をかけて叩き込みます。
・1人で手上げする方法
組み立ても終盤になるとクレーンを他の段取りで利用したい状況になります。
そのような状況で桁を一人で手上げする方法をご紹介します。
1・脚立を収める場所の中心に据える
2・脚立に納める材を引っかけて脚立の上に上る
3・脚立の上で桁をもって納める
この状況では桁の上部にカケヤを持った大工さんが多数いるため、叩き込みは任せて大丈夫です。
この方法は番手(場所や向き)を間違えやすいため注意する必要があります。
・硬い(きつい)仕口の対処法
木造の仕口はプレカット加工でも天気(湿度)で仕口の硬さが変わります。
仕口が硬い場合には叩き込みも大変になりますので木殺しを利用します。
オスのエリ部分(材幅)を丁寧に叩くことでかなり入りやすくなります。
特に上り梁の組み立てでは下側が叩きにくい(叩くと外れる)ため木殺しを行って上部の叩き込みだけで下も同時に入れる方法がおススメです。
組み立てのコツ(番外編)
ここまで紹介した作業で、ほとんどの組み立ては可能です。
最後に組み立てに関わる豆知識をご紹介します。
・吊る順番について
組み立てる部材には順番があります。
桁は積み上げて搬入するため先に組み立てる材を見つけ出さなければなりません。
プレカット図面を見る
最も確実な方法はプレカット図面を確認する方法です。
逆アリや台持ちなどの仕口記号を読んで判断します。
少なくとも棟梁は事前に把握しておいてください。
外部面は仕口がない
他にも材を見てある程度判断できます。
外部面は仕口がなくボルトの座彫りがたくさんある状態なので見ればすぐにわかります。
カマ継のメスと通し柱に刺さるホゾ
完全に積みあがっている状態では上部に印刷された番手を見ることができないため、仕口だけを見て判断します。
先に納める材はカマ継のメスと通し柱に刺さるホゾの仕口がある材です。
応援先での判断に利用できます。
・いろいろな工夫(昔ながらの方法)
クレーンを使用したプレカットの組み立て作業は脚立やカケヤ、足場かけで組み立てますが、クレーンがなかった時代にはロープや床から叩くタイプのカケヤを使用して組み立てを行っていました。
クレーンを使用しない組み立て作業では、そのような昔ながらの方法も効果的です。
・組み立ては勢いも必要
最後になりますが、組み立て作業は勢いも必要になります。
作成者は昔応援で行った建前で、9mの通し柱を手で立てているのを見たことがあります。
一見不可能に思える作業ですが、クレーンの無かった時代から建前を行っている大工さんにとっては当たり前のことだそうです。
無理をしてはいけませんが、人ができないことをできる大工さんを目指す場合は勢いも必要です。
最後に
組み立て作業は作成者も悔しい思いをした経験があります。
建前の段取りや指示を出す担当に年齢は関係ありません。
デキナイ奴と判断されるとひたすら材料運び(荷揚げ)をさせられます。
デキル大工として認められるためには組み立て作業を修得するしかありません。
独立してから悔しい思いをしないように、独立前に修得しておくことをおススメします。