断熱材の特徴の違いや注意点【プロの大工用】結露対策と意外な結論
今回は、大工がリフォームや新築工事で断熱材を扱う上で必要な各種断熱材の特徴や目的と結露に対しての考え方についてご紹介します。
断熱材は夏の暑さや寒さから住宅の温度を保つために必要な建材で、ウール系・発泡板系・吹付け系など様々な施工法があります。
断熱材の違いは結露対策の考え方の違いによるもので、それぞれのハウスメーカーが独自の考え方をもって提供していますので、施工者はハウスメーカーの目的に合わせて施工を行う必要があります。
今回は、結露の特性と建築の関係について、理科の授業で習ったことの延長でまとめました。
目次
断熱材と建築の関係について
・国の政策について
・ハウスメーカー(工務店)による違い
・夏と冬の違い
・地域による違い
断熱の原理1・伝熱について
・3つの伝熱要素
・断熱材とは
・窓ガラスの熱対策
断熱の原理2・結露について
・湿度や結露について
・建築物と結露の関係
・断熱材と結露について
・ウール(繊維)系断熱材の仕組み
断熱材を扱う注意点
・気密仕様について
・シロアリと外断熱仕様について
・窓の断熱仕様について
各種断熱材について
・ウール(繊維)系断熱材
・発泡板系断熱材
・吹付け系断熱材
吹付け断熱とウール系断熱の違い
・特性の違い
・大工の役割について
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記事の作成者
深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。
説明用動画
このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。
断熱材と建築の関係について
・国の政策について
現在日本では、高気密、高断熱住宅の建築に補助金を出すなど、住宅の省エネ化を促進しています。
詳しくはZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)で検索してみてください。
(参考)リクシルのZEH解説ページ
※高気密、高断熱住宅は建築家の中でも賛否両論があります。
・ハウスメーカー(工務店)による違い
断熱の仕様についてはハウスメーカーごとに考え方が違います。
理由は、断熱材の種類によって施工性や原価といった値段や断熱効果が違い、耐久性については長期的な経年経過を観察する必要があり、歴史の浅い工法については観察中の段階です。
様々な要因で、最も優れた断熱材は確立していません。
断熱材や石膏ボードの仕様に関わる法律や税金などについてまとめたページはこちら
・夏と冬の違い
建築において夏の暑さに対する断熱と冬の寒さに対する断熱は全く別の性能が求められます。
夏の断熱に求める性能
夏は高い気温から部屋の温度を保つ性能の他に、強い日射への対策や、壁内の通気(換気)対策が必要です。
冬の断熱に求める性能
冬の断熱では、低い気温から部屋の温度を保つ性能の他に、結露による構造材の劣化防止や、断熱の湿りによる断熱効果の低下防止への対策が必要です。
大工と建築資格(建築知識)の関係についてまとめたページはこちら
・地域による違い
日本の中でも各地の平均気温が大きく違うので、建築に求める断熱性能は地域によって異なります。
断熱の原理1・伝熱について
断熱材の性能について理解するためには、熱の伝わり方を知る必要があります。
・3つの伝熱要素
熱の移動(伝わり)は、1熱伝導、2熱対流、3熱放射の要素によって行われます。
1・物体内の伝熱 (熱伝導)
熱伝導とは物体を通って伝わる熱移動です。
例
鉄の柄のフライパンを熱すると柄も熱くなる。
※概ね比重が高い物体は熱を通しやすく、比重が軽い物体(気体など)は熱を通しにくい特性があります。
2・気体や液体内の伝熱 (熱対流)
熱対流とは液体や気体が流動することで伝わる熱移動です。
例
冬には無風より風がある方が寒く感じます。
3・光線での伝熱 (熱放射)
熱放射とは気体や液体がない状態でも光線によって熱が伝わる熱移動です。
例
太陽の日差しが熱放射です。
※熱放射は光線なので鏡などで反射することができます。
・断熱材とは
断熱材と呼ばれる建材は上記の熱伝導率の値が一定以上低いもの(軽いもの)のことを言います。
畳も断熱材の一種ですが、木材は断熱材ではありません。
・窓ガラスの熱対策
窓には空気層を設けて断熱効果が高い二枚ガラスが主流となっています。
他にも窓表面に反射加工を行うことで放射熱を軽減するものもあります。
断熱の原理2・結露について
建築の断熱には結露対策が必須です。
結露の原理と建築における結露対策の考え方についてご紹介します。
・湿度や結露について
湿度
空気中には一定の水分を含むことができ、空気に対しての水分量の比を湿度といいます。
露点
空気中に含むことができる水分の最大値を露点といい、露点は空気の温度によって変わります。
温度が高い方が、露点温度は高く多くの水分を含むことができます。
結露
一定湿度の空気を冷やしていくと露点を超えた時点で含めなくなった水分が水滴になり、この現象を結露といいます。
・建築物と結露の関係
結露は温度の違いによって確実に発生しますので、屋内と屋外の気温が異なる夏や冬の建築物でも発生します。
暖房による水蒸気
暖房はエアコンやストーブを問わず水蒸気を発生させていますので、冬季の建築物は非常に結露が発生しやすい状況になります。
壁内結露
壁の内部で結露した場合、水滴は木や鉄を腐食させるので構造材にも大きな影響を与えます。
断熱による結露発生のコントロール
建築では構造材に悪影響を与える壁内結露を起こさないために、断熱材によって結露の発生部分をコントロールする考え方があります。
・断熱材と結露について
断熱材の中で結露すると断熱材が水を含み重たくなることで熱伝導率が上がり(熱を通しやすくなる)断熱効果が下がります。
結露水が発生した断熱材の乾燥についてもコントロールする必要があります。
・ウール(繊維)系断熱材の仕組み
グラスウールやロックウールなどの断熱材を使用する場合の結露対策についてご紹介します。
壁内の構造
ウール系の断熱材は、部屋内から石膏ボード→防湿層→断熱層→通気層→外壁の順番で使用されるように計画されています。
・石膏ボード
仕上げには一般的な石膏ボードを使用します。
・防湿層
断熱材の表面にはビニールが付いています。
そのビニールが断熱材に水分が入らないようにするための防湿層です。
・断熱層(繊維部分)
断熱材のウールの部分です。
断熱を行い室内の温度を保ちます。
※石膏ボードと温度差が出ないように断熱材と石膏ボードは密着させる必要があります。
・通気層
断熱層で発生した結露水を通気して乾燥させます。
断熱材の裏側のシートには通気穴が開いています。
※断熱材を二重に入れる場合には両面に通気穴が開いているタイプを使用します。
・外壁材
外壁の上部や下部、屋根の棟部分などに通気口を設け、上昇気流を利用して壁内を通気します。
※補足
この構造はあくまでも冬の結露対策です。
夏の断熱や防水、構造など建築には様々な要素が関係します。
断熱材を扱う注意点
・気密仕様について
断熱効果は気密性によっても効果が変わります。
仕様はハウスメーカーによっても様々ですが、基本的に隙間がないように施工する必要があります。
※上記の防湿層が気密シートを兼ねる商品も多い
住宅と予算についてFP(ファイナンシャルプランナー)の考え方についてまとめたページはこちら
・シロアリと外断熱仕様について
以前外断熱仕様というものがありました。
木造の外断熱仕様はシロアリ被害が多く発生したことで今では減ってきています。
日本で建築を行う場合には様々な要素を把握する必要があります。
・窓の断熱仕様について
建築では、窓サッシにも高い断熱性能や気密対策が必要です。
特に吹付け断熱を使用する高気密な建築では、壁部分と窓部分の気密や断熱性能のバランスが悪いと結露が集中することがあり、特殊な商品を取り付ける場合があります。
窓の取り付けではサッシの性能を最大限活かすために取り付けにも気を配る必要があります。
各種断熱材について
・ウール(繊維)系断熱材
種類
ウール系のグラスウールにはロックウールやグラスウールがあります。
一般的に間柱間の幅で防湿層になるビニールでまとめられています。
・グラスウール
グラスウールはガラス繊維でできており、様々な厚さや密度の商品があります。
比較的安価なこともあり、住宅などで多く使用されています。
・ロックウール
ロックウールは岩綿で出来ています。
※石綿(アスベスト)ではありません。
主な使用箇所
主に天井や壁に使用します。
上記で解説した通り、仕上げのボードに密着させて使用します。
注意点
付属のビニールを柱面に止める仕様とされていますが、ビニールを挟む場合にはボードと下地にボンドが付かないのでボードはビス止めになります。
・発泡板系断熱材
発泡板は発泡素材でできた板です。
種類
発泡スチロールやポリエチレンフォームがあります。
高密度のタイプや表面に反射材が貼られたものもあります。
主な使用箇所
木造住宅では主に床下の断熱に使用します。
コンクリートと共に打設することもあります。
注意点
板状なので隙間なく施工するためには加工精度が必要です。
残材の処理も難しいため、近年ではプレカットも普及しています。
・吹付け系断熱材
吹付け断熱は他の断熱材と違い専門の業者が施工を行います。
ウール系断熱材と比べ簡単に気密性が取れる工法です。
種類
ウレタン系や、新聞紙などのリサイクル材などがあり、防火性能の高いものもあります。
主な使用箇所
主に屋根裏や床に使用します。
屋根裏では野地板下に通気層を設けて通気を行います。
外壁面は外部用面材の内側(透湿シートの場合もある)に吹き付け外壁工事で通気を行います。
注意点
専門業者が造作の途中段階で施工を行うので一日現場を預けることになり、吹付け後は下地工事を行いにくくなるため確実に段取りを行う必要があります。
吹付け断熱とウール系断熱の違い
・特性の違い
吹付け断熱は夏の暑さ対策のための断熱には最適です。
冬の結露対策にはウール系が向いているといえます。
施工を行う大工さんであれば、吹付け断熱の効果を肌で感じていると思います。
しかし、建築は長期的に使用するものなので、吹付け断熱と木造建築との相性が判断できるのは経年経過の観察を観察してからになりそうです。
・大工の役割について
どちらにしても仕様を決めるのはお客さんです。
大工はお客さんが選んだ仕様で、特徴を最大限に活かす施工を行う必要があります。
※僕個人の意見としてはウール系の断熱材の気密処理も、大工工事と相性がいいとは言えませんので専門業者が行う方が良いと思っています。
最後に
いかがでしたでしょうか?
断熱材を知ると様々な建材の意味が分かってきます。
近年の建築では初めて扱う商品も多いと思いますが、その商品が実は結露対策のための高額な建材だったということもよくあります。
取り付け責任は大工にありますので、わからないことは調べてから施工しましょう。