職人の常識(請負契約)について【初心者向けにプロが解説】

工事現場全体における大工職人の立場まとめ

今回は若い大工さん向けに職人の立場についてまとめました。

大工が関わる工事はお客さんの財産に大きく影響するため、現場に入るだけでも一定の常識が必要になります。
この常識は長く大工を行っていると自然と身につくものですが、親方が若い方に教えようと思うと非常に伝えづらい部分です。

作成者もこの常識を理解するまでに遠回りした経験があるので、若い方が無駄に迷うことがないように工事全体を体系的にまとめてみました。

目次

説明用動画

工事に関わる関係者
・お客さん
・元請け会社
・下請け業者(親方)
・弟子や見習い

工事の仕組み(請負契約)について
・契約とは
・請負契約(民法632条)とは

工事契約の内容について
・契約書の内容
・工事請負契約約款
・設計図書(せっけいずしょ)

下請け会社(業者)について
・元請け会社と下請け会社の関係
・下請け会社に求められること

現場に入ることの責任
・お客さんとの会話
・親方の代理

本質的に求められること

最後に

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

作成者プロフィールページへ

説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

目次へ戻る

工事に関わる関係者

工事関係者イラスト

 

まずは工事の関係者をまとめてみました。
皆さんがどの立場で工事に関わっているかを確認してください。

・お客さん

工事はお客さんが依頼を行って発生します。
お客さんの目的は住みやすい家を建てて(改修して)もらうことです。

・元請け会社

お客さんは工事会社に工事を依頼します。
お客さんから直接工事を請け負う会社が元請け会社です。

工事会社の目的は、依頼者が希望するサービスを提供してお金をいただくことです。

・下請け業者(親方)

工事は一般的に複数の下請け業者が関わります。
下請け業者は元請け会社から依頼され代わりに工事を行う業者です。

電気屋さん、水道屋さん、左官さん、屋根屋さんなどたくさんの業者さんがありますが、一人親方と呼ばれる個人事業主の大工さんもこの下請け業者に当たります。

・弟子や見習い

工事に関わる大工さんは親方だけではありません。
弟子や従業員も工事を行います。

弟子

弟子とは下請け業者(大工の親方)になるためにプロの大工に教えてもらっている状態です。

雇用関係はありませんので一般的に給料ではなく、講習料を払って出来高払いの単価をもらう形式です。

従業員

従業員の大工さんもいます。
従業員は給料と引き換えに会社の利益のために仕事を行う状態です。

雇用関係なので給料をもらう反面、大工を教えてもらうわけではないので独立できるスキルを身に着けることが難しい形態です。

目次へ戻る

工事の仕組み(請負契約)について

大工が関わる工事の仕組み(請負契約)について整理したいと思います。

・契約とは

契約(民法)についてイラスト契約とは双方の希望(目的の交換)のための約束です。
請負契約の解説の前に契約についての概念のポイントをご紹介します。

口約束でも成立

契約は口約束でも有効ですが、トラブルの際に証拠が残らないため一般的に書面による契約が行われます。

※民法は個人の自由を尊重する法律であるため、基本的に民法の規定より双方が同意した契約内容を優先します。

様々な目的物

契約で交換される目的物は金銭や商品の他、権利や行動も対象となります。

※金銭と商品の交換が売買契約です。

契約は平等

契約はお互いの権利を交換するための約束なので当事者に上下関係はありません。

※建設業界には下請負契約という言葉があり依頼者が「上」という風潮がありますが、下請けであっても平等に契約を交わしている関係です。

契約の終了(達成)

双方が義務を果たし、約束通り権利の交換が完了すると契約は終了します。

・請負契約(民法632条)とは

請負契約は建築の完成を目的とした契約形式です。

目的物の所有権

工事が行われる場合、目的物(工事部分)の所有権は一度工事会社に移ります。
工事完了後、お客さんの請負金額の支払いと同時に引き渡し(所有権を返す)が行われます。

お客さんの権利

お客さんは瑕疵(失敗)補修の請求や損害賠償請求の権利があります。

※補修請求できないほど工事会社との関係が悪化した場合に、お金を請求して他の会社に依頼できます。

目次へ戻る

工事契約の内容について

一般的な工事請負契約に含む内容についてご紹介します。

・契約書の内容

不測の事態が起きた場合にトラブルにならないように契約の取り決めを行います。

工事内容

どのような工事を行うか、範囲や工事内容を明確に取り決めます。

請負額

工事の請負金額を明示します。

工事の期間

着工から完成(引き渡し)までの期間を明示します。

その他の契約内容

・前払い時の支払い方法や時期
・天災で被害があった場合の負担
・価格変動や変更などの定め
・第三者(他人)から損害を受けた場合の負担
・お客さんからの貸し出し(道具や材料)
・検査方法について
・支払いの時期や方法
・請負契約を守らなかった場合の定め
・トラブルの場合の解決方法

※トラブルが起きなければ必要のない項目も多数含まれています。

・工事請負契約約款

工事請負契約約款(やっかん)とは

工事請負契約の内容についてはどちらが負担するべきか判断が難しい項目があります。

工事は一日で完了する規模もあれば数億規模で行う場合もあります。
大きな工事でのトラブルは工事会社に大きな影響を与えるため、大手の建設会社が集まって当事者双方の利益や義務のバランスが取れるおススメの工事契約内容「工事請負契約約款」をまとめました。

約款の扱い

工事請負契約約款はあくまでもおススメの工事契約内容なので使用する義務はなく、状況に応じて内容を変更することもできます。

約款の内容(例)

・施工中に第三者に損害を与えた場合には受注者(元請け会社)が負担する

・工事中の損害保険は受注者がかける

・天災で被害があった場合には発注者(お客さん)が負担する

など

・設計図書(せっけいずしょ)

工事請負契約の際には設計図書も添付します。
設計図書とは工事内容を示す設計図や仕様書で契約書類となります。

※設計図通りにできないと契約違反になります。

目次へ戻る

下請け会社(業者)について

工事では全部または一部を下請け会社に依頼することもあります。

※大工の一人親方も下請け業者に当たります。

・元請け会社と下請け会社の関係

元請け会社と下請け会社の間では一般的に下請負契約を交わします。

※内容は工事請負契約とほぼ一緒です。

・下請け会社に求められること

下請け会社に求められることをご紹介します。

高い施工品質

請負契約や下請負契約では金額や期間が設定されているため高い施工品質が求められます。

※工事期間の遅れなどは契約違反になります。

立場を理解した行動

下請け会社は元請け会社のサービスを理解する(ブランドを守る)ことが求められます。

元請け会社はそれぞれに独自のサービスをお客さんに提供していますので、代わりに工事を担う下請け会社が引き受ける仕事は工事だけではありません。

例えば
・工期を重視する会社
・お客さんのプライバシーを重視する会社
・清潔感を重視する会社
など

目次へ戻る

現場に入ることの責任

大工を目指す場合には初心者でも現場(お客さんの家)に入って作業することになります。
工事は上記した様々な契約の上で行っているので「知りませんでした」ではすまないこともあります。

・お客さんとの会話

現場で作業を行っているとお客さんと話す機会があります。
お客さんは下請け会社に入りたて方を元請け会社の方だと思って話している場合があり、軽く対応したつもりがじつは重要な伝言の依頼であることも考えられます。

・親方の代理

弟子入りや見習いをされている場合でも、すべての行動は親方の代理で行っていることになります。

お客さんや元請け会社から見ると、代理人が行った作業の仕上がり、収まりなど全てを親方が行ったことになります。

代理人の失敗は親方の信用失墜に直結しますので、責任を自覚して行動する必要があります。

目次へ戻る

本質的に求められること

今回ご紹介した工事全体の関係を整理すると本質的に大工が求められることが見えてきます。

お客さんは元請けが提供するサービスと共に高品質な工事を求めています。
大工工事は大工にしかできませんし、高い技術はお客さんの満足に直結しますので自信をもって取り組んでください。

目次へ戻る

最後に

いかがでしたでしょうか?

今回の内容は技術習得を目指す方には「何の話?」と思ったかもしれませんが、この内容を知らなかったことで作成者は大きく回り道をしました。

お客さんや元請け会社、親方の立場を理解できると日々の作業の本質が理解できるはずですので、良い大工さんを目指して頑張ってください。

目次へ戻る
サイトマップへ
ホームへ