100年住める家はお客さんのため?【大工の基礎】FPの考え方

お客さんの予算と家作り

突然ですが大工さんは何を目的に仕事をしていますか?

「お金のため」と答える大工さんも多いと思いますが、どんな仕事もお客さんのためになることでお金が発生します。

今回はお客さんのための家づくりとはなにか?
100年住む家と20年壊れない家のどちらがお客さんに求められるかをテーマにまとめました。

目次

説明用動画

はじめに
・建築と家計の専門家
・設計士(建築士)の考え方
・ファイナンシャルプランナー(FP)の考え方
・大工の文化について
・現代の住宅建築のニーズについて

大工が自宅建築に求めること
・自宅建築の条件
・条件1・理想の仕上がり
・条件2・予算内に収まる

設計士のこだわり
・設計士の仕事
・設計士と予算

家計から考える住宅との付き合い方 
・住宅取得資金について
・生活費と住宅取得資金のバランス
・暮らしや文化の変化
・住宅の消費と財産価値
・メンテナンス費
・居住形式

設計士とFPの考え方の比較
・両方必要な考え方
・お客さんが求める形

大工に求められること
1・依頼されたものを正確に作る
2・壊れない家を作る
3・住宅の専門家になる

最後に

記事の作成者

深田健太朗深田健太朗 京都府出身 1985年生
一級大工技能士や二級建築士、宅建士など住宅に関連する国家資格を5つ持つ大工です。
人生で最も高価な買い物である住宅に関わることに魅力を感じて大工職を志しました。
大工職人減少は日本在住の全ての方に関わる重大な問題だと考え大工育成のための教科書作りや無料講習を行っています。

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説明用動画

このページの説明用動画です。
文字で伝えにくい部分は、映像で詳しく説明しています。

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はじめに

・建築と家計の専門家

100年住む家について考える上で2つの住宅の専門家が相反する考え方を持っています。
一つが建築の専門家である設計士、もう一つが家計の専門家のファイナンシャルプランナー。
2つの考え方の違いを比べることで、大工に求められることを客観的に分析したいと思います。

・設計士(建築士)の考え方

設計の方や大工さんの中に「100年持つ家を建てる」ということを目標としている方が多くいます。

設計士は建築の設計を行う仕事ですので、建築物の耐久性や使いやすさを向上させて長く暮らせる家を設計する立場です。
設計士さんは立場上、長く使える家づくりを目指します。

・ファイナンシャルプランナー(FP)の考え方

ファイナンシャルプランナー(※以後FP)は一般の方の家計の設計をする専門家です。

FPさんは「一生でどのようにお金と付き合うか?」を計画する上で、住宅取得資金(家にかけるお金)について重要な項目と位置付けています。

FPさんから見た住宅(持ち家)は財産(いつでも売ってお金に換えることができるもの)という扱いになり、いつかは売るということを前提に消費する金額や健全な家計について計画します。

・大工の文化について

日本の建築(和室)にはリフォームを前提にする文化(工法)があります。

例えば
・敷居を栓で固定し、栓を抜くだけで敷居の交換が可能にする工法
・鴨居上の吊り束は経年で下がりが起きた場合に吊り上げることができる工法
など

このような工法や、宮大工のように長く使用する建築物の建築にも関わる大工は「100年住む家づくりを目指そう」と考えている方も多くいます。

しかし、そのような工法は工事費も高くなり、ボンドを使用しないなど狂いも出やすくなります。

・現代の住宅建築のニーズについて

現代の住宅建築ニーズ(お客さんが求めること)については、大工さん(読者さん自身)が自宅を建てるつもりで考えると簡単に理解できます。

読者さんの持っている「大工のこだわり」が一般のお客さんのニーズとズレがないかを確認してください。
お客さんの要望が理解できると読者さんが大工として目指すべき方向が明確になるはずです。

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大工が自宅建築に求めること

大工さんである読者さんは一般の方より住宅について詳しいと思うので、自宅建築の計画を考えながら見てください。

・自宅建築の条件

自宅建築で満足するためは2つの条件をクリアーする必要があります。
一つは理想の仕上がり、もう一つは予算内に収まること。

・条件1・理想の仕上がり

自宅の建築を思い浮かべて理想の仕上がりについて考えてみると、部屋ごとに求める項目が異なることに気が付くはずです。

こだわりたい部分

もちろん夢のマイホームなので、お金がかかってもこだわりたいという部分も思い浮かぶと思います。

例えば
・かっこいい外観
・広いリビング
・奥さんこだわりのキッチン
など

機能重視な部分

中には機能を重視したい部屋もあると思います。

見た目より使いやすさを重視して、お金はなるべく抑えたい部分。

例えば
・道具用の倉庫
・家事を考えた家事室
など

※実はこの部分が建築業界の進める仕上がり(プロとしての仕上がり)とお客さんの求める仕上がりにズレが起きやすい部分になります。

・条件2・予算内に収まる

どんな買い物も予算がありますよね。
特に大きな買い物である建築では一つ一つの商品で大きく金額が上下しますので、仕上がりに関わる工事費について吟味する必要があります。

では予算はどのように決めますか?

住宅ローンの月々の支払い額だけを見て判断している方が多いと思いますが、住宅の購入は他のものを購入する場合とは状況が違います。

住宅は長期間にわたって利用し、大きなお金を消費する計画です。
このようなお金の使い方を計画する専門家がFPさんです。

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設計士のこだわり

設計士は建築物の設計の専門家です。

・設計士の仕事

建築物は土地に定着する物なので土地に設定される権利関係や制限を守る必要があり、その中でお客さんの暮らしに合わせた間取りや性能などを計画します。

※丈夫で使いやすい家を作る仕事なので、建て替えを考慮する概念がありません。

・設計士と予算

設計士への依頼は土地と予算額を提示して行います。
設計費(支払われる設計監理費)は工事額から算出します。

予算はあくまでもお客さんが決定することなので、工事費はもちろん土地の価値や生活費についてはお客さんの自己責任になります。

設計士はメンテナンス費なども含め、理想の住宅の重要な項目である予算(お金)について一切考慮しません。

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家計から考える住宅との付き合い方

家にかけるお金の計画についてFPさんの考え方についてご紹介します。

・住宅取得資金について

FP用語で家にかけるお金を住宅取得資金と言い、購入時の資金、賃貸時の家賃、メンテナンス費用、改修費用などが含まれます。

FPさんが扱う家計計画の中で住宅取得資金は「人生でお金を使う大きなイベント」のうちの一つとして位置づける重要度の高い項目です。

・生活費と住宅取得資金のバランス

住宅取得資金は生活費とのバランスが重要で、家庭ごとに資産やお金の使い道が異なります。

例えば
・車や趣味にかけるお金
・ご飯や旅行にかけるお金
など

FPさんはまず収入などから家庭の資産を計算し、お金の使い方の振り分けを行い、住宅取得資金を割り当てます。

※暮らしやすさに関しては建築だけでなく家具や家電で補うこともできます。

・暮らしや文化の変化

住宅は生活を行う場所なので暮らしやすさを求めます。
FPは住宅について保険を考えるのと同様に、将来の家計について計画します。

暮らしの変化

読者さんの家族の構成を思い浮かべていただくと、20年経つと家族の構成(年齢も含めて)が変わっていることに気づくと思います。

理想の住宅の形は暮らしに合わせて変わっていくため使いやすさも変動します。

文化の変化

築50年ほどの建築物を観察してもらうと文化の変化が分かります。
設備機器の進化と共に日本人の暮らし方の変化も感じられます。

・住宅の消費と財産価値

土地付き建物(不動産)は財産です。
財産というのはいつでも売ることができ、お金に換えることができるものです。

土地の不動産価値はあまり変動しませんが、建物は年を重ねるごとに価値が下がり最後には価値がなくなります。

建築物は消費する財産

建築物は家賃などと同様に年々消費します。

車のように新しければ値段が付きますが、古くなると撤去費用が考慮されることもあります。

土地は消費しない財産

土地は増やすことも減らすこともできないもので、お金と同様にあまり価値が変動しません。

銀行への預金や投資など資産を運用することと同様で、所有している土地(財産)を使用(住む)している状態になります。

・メンテナンス費

住宅取得資金において盲点となるのがメンテナンス費(補修費)です。

建材もそれぞれに耐用年数があり、耐用年数が長いものは値段が高くなります。

※値段の高い建材はメンテナンスの際にも高くなります。

・居住形式

住宅も様々な形式があります。

賃貸住宅

賃貸住宅も築年数や広さなどで家賃が異なります。

家賃は年々消費しますが、外壁や水回りなどのメンテナンスは不要で、暮らしが変わった際も気軽に借り換えることができます。

新築(建て替え工事)

新築住宅(購入)や建て替えを行う場合も多いと思います。

新築住宅の建築費は非常に幅があります。
一定の規格で建てられた新築は値段が抑えられていますが、オーダーメイドを行うと高くなります。

中古住宅

中古住宅の購入はほぼ土地の購入になります。
全くお金をかけずに住み続けた場合、売る段階ではほぼ同じ額で売ることができます。

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設計士とFPの考え方の比較

設計とFPは両方お客さんの暮らしに関わる設計を行う専門家ですが、全く違う考え方を持っていることを理解していただけたと思います。

読者さんもお客さん目線でお互いの特徴を比較してみてください。

・両方必要な考え方

二つの専門家はどちらが正しいと言えるでしょうか?

理想の住宅に求めることは、「仕上がり」と「予算に納める」なのでどちらも不可欠な考え方だと思います。

・お客さんが求める形

予算についてはお客さんそれぞれに持っている資産が違うので絶対ではありませんが、少なくともお金が余っている人は世の中にあまり多くないことは事実です。

以前よりも住宅にかかる金額も抑えられるようになった現在では、100年住むことができる家よりも予算(生活費)に合わせて便利な家、メンテナンスフリーな家が求められているのではないでしょうか

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大工に求められること

ここまでの住宅建築に関する専門家の考え方を客観的に見たうえで、大工さんに求められることを整理したいと思います。

1・依頼されたものを正確に作る

大工が依頼されたものを正確に作ることはごく当たり前のことですが、とても重要な項目です。
計画通り、期間通りに家を作ることが求められます。

2・壊れない家を作る

一般の方が求める建築

日本の建築文化である「後にリフォームしやすい工法」は工事費が多くなり、ボンドなどを使用しないことで狂いが起きやすくなり、一定の工事費や補修費を払える資産に余裕があるお客さんだけが依頼する工事となります。

お金が余っている方はそんなに多くありません。

近年では
・予算を抑えたい
・メンテナンスフリー(補修が不要な丈夫な作り)
・時代に合わせた使いやすい家
ということをお客さんも多くなります。

大工が目指すべき工事

上記したことを踏まえたうえで作成者が考える「大工が目指すべき工事」は、20年壊れない家づくりです。

工事費が高くなる100年住める家を建築屋がお客さんに進めるのはナンセンスです。
工事費を抑えて20年メンテナンスフリーを目指します。

簡単なように聞こえますが、20年メンテナンスフリーな工事は簡単ではありません。

クロスの割れなどは地震などでも起きますが、それでも割れにくいように施工することは割れの研究と手間がかかります。

計画段階で考えられていない次のリフォームについては考えてもしょうがないので、絶対に壊れないものを作ればいいと思います。

3・住宅の専門家になる

今回ご紹介した設計士とFPさんは、結局片方だけではお客さんのためにはなりませんでした。
ではお客さんは誰に頼ればいいと思いますか?

大工が作らないと建築は完成しません。
大工の経験は他の職業では補うことができません。

大工さんだけが住宅の専門家になることができます。
そのような大工が求められていると思います。

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最後に

大工にはたくさんの文化がありますのでどれも間違いではありませんが、現在の需要も理解することも大事だと思います。

作成者自身、自宅の購入や工事を行ってお客さんの要望や専門家の必要性を理解しました。
そこで、大工にしかできないこともたくさんあることにも気づき、大工の必要性や責任も感じました。

皆さんもそれぞれにお客さんにしてあげられることを見つけてほしいと思います。

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